きたまり×白神ももこ×筒井潤
『腹は膝までたれさがる』
京都を拠点にダンスカンパニー「KIKIKIKIKIKI」を主宰し、多彩な活動で注目を集める振付家・ダンサー、きたまり。
ダンスカンパニー「モモンガ・コンプレックス」を主宰し、東京を拠点に精力的な創作活動を行っている白神ももこ。
同世代でありながら初顔合わせとなるこの2人の振付家・ダンサーを、パフォーミングアーツグループ「dracom」で活躍する筒井潤が
演出する新作ダンス公演を、京都芸術センター&急な坂スタジオの連携のもと、京都・横浜の2都市で開催します。
シモーヌ・ド・ボーヴォワールの著書『老い』からの言葉をタイトルとし、2人のダンサーを通して、
「老いる」とは何か、「身体」とは何かをひもとく試みとなります。
★今回、せっかくの2都市開催なので、京都・横浜公演の双方をご覧いただき、
レビューを書いていただくことにしました!
横浜公演の前に、今回執筆をお願いした鈴木励滋さんから、素敵な文章が届きました!
ぜひご一読ください。
鈴木励滋(舞台表現批評)
老いを「美しく」みせようとしているアーティストほど信用ならぬものはない。
それは、この世に流通している「美しさ」なんてものではもう、こんなになってしまったわたしたちの世界を豊かにはしてくれないと判ってしまっているからだ。それどころか、世界をこんな風にしてしまったのに「美しさ」は一役買っているのかもしれないとすら感じている。
同じようなことが“障害と芸術”の間にも横たわっている。「違ってもいいんだよ」とか「障害も個性のひとつだよ」という風にマジョリティの側から手を差し伸べ、マイノリティの彼や彼女の容姿や所作を「美しさ」と名づける際に、世界は微塵も豊かにはなっていない。世の中の主流の人々が異質な者たちを、自分たちマジョリティの尺度で判断し評価し飲み込んだに過ぎない。まさに了解可能なものへと矮小化/変容されてしまったわけで、それはけっして多様化になど向かわない。むしろわたしたちの可能性は不寛容な価値観によって閉ざされてしまっていると思った方がよい。この世に溢れている「美しさ」は美しさを矮小化/限界設定しているといえよう。
ゆえにほんとうは、老いや障害という異質なものに対峙するということは、盤石だと勘違いしていた自らの足場が危うくなるほどの出来事なのだ。若いだとか健常だとか自負していたところで、その出来事を自らが理解できるものに変換してカタルシスを得られようはずもないのだ。かといって、老いの過酷な現実を見せつけるようなアーティストも、詰まるところ「悲話」というパッケージにして消費を促すに過ぎず、「悲しく」見せようとするのも「美しく」見せようとするのも、根は同じである。
だからこそ、きたまりと白神ももこと筒井潤という顔合わせで「老い」をテーマに作品を手がけると聞いて、興味が湧いたのだ。
なにせ「6歳からクラシックバレエを習うが次第に美しいものにコンプレックスを抱き始め」たとプロフィールに記されていたこともある、ダンス・パフォーマンス的グループ「モモンガ・コンプレックス」を率いる白神ももこだ。「ちっさいのん、おっきいのん、ふっといのん」という作品があり「いわゆるダンサーらしくない体型やキャラクターを好んで起用」などという紹介もされていたダンスカンパニー「KIKIKIKIKIKI」を主宰する、“ちっさい”きたまりだ。どう考えても、この二人の踊る作品が「美しさ」を目指すはずがないと思ったからだ。
はたして作品は、まさしく期待通りであった。構成を担った筒井潤が京都芸術センターでのアフタートークで「カワイイおじいさんおばあさんに若者が憧れるという風潮」を批判し、さらにはその流れに寄せて「カワイイ」を演じようとする高齢者にも違和感を示したのを聞いて、わが意を得たりと思っていると、次の瞬間、白神が「わたしはカワイクなりたい」と会場を沸かせた。そう、笑いもこの人たちの得手であった。悲観楽観の濃淡こそあれ、三人とも老いを喜劇とすることに突破口を見出しているようでもあった。
横浜の公演前なので、作品の内容について詳細を記すことは避けよう。主宰する公演芸術集団「dracom」で筒井はあらかじめ録音した台詞をスピーカーから流し、舞台上では俳優がそのシーンを演じるという手法で、台詞と身体のズレを見せてきたのだが、京都公演ではその演出を援用したある仕掛けによって観る者に重層的なイメージをもたらした。その上で白神ときたが、相手が苦手そうなポーズや振りをお題として互いに出し合うなんてので笑いを巧みに散りばめ緩急をつけながら、「老いてできなくなった身体」を演ずることだけでなく、「老いてできなくなった身体」で踊るとはどういうことなのかというところにまで歩を進め、老いること/できなくなることとは何かと問うのにも成功した。けれども同時に、彼/彼女たちが目論む作品の射程は、まだまだこんなものではないだろうとも感じさせられた。
きたまりと白神ももこの、老いを「美しさ」なんて陳腐なものには回収しない踊りが、京都公演の試行錯誤を経た横浜で、いったいどこまで連れて行ってくれるのか、なんとも楽しみでいる。だってその先には、筒井の言った「おじいさんやおばあさんがカワイイを演じなくても済む社会」、つまりみんながおんなじでなくてもよい、まさしく豊かな世界があるのだという予感しか、わたしにはないからである。
振付・出演:きたまり(KIKIKIKIKIKI)、白神ももこ(モモンガ・コンプレックス)
演出:筒井潤(dracom)
公演日時
2015年
1月16日(金)19:30開演
1月17日(土)15:00開演 ★アフタートーク開催!
1月18日(日)15:00開演
※受付開始は開演の30分前、開場は15分前
会場
のげシャーレ(横浜にぎわい座 地下2階)
(〒231-0064 横浜市中区野毛町3丁目110番1号)
http://nigiwaiza.yafjp.org/access/
料金
【前売】
2,500円(一般)
2,000円(学生)
シニアチケット:1,000円(60歳以上・前売のみ)
【当日】
3,000円(一般)
2,500円(学生)
※学生証や年齢のわかる証明書を必ずご持参ください。
※全席自由席です。
プロフィール
きたまり Kitamari
2003年より京都を拠点にダンスカンパニー「KIKIKIKIKIKI」を主宰。以後、演出・振付・ダンサーとして活動を行っている。2006年京都造形芸術大学映像・ 舞台芸術学科卒業。これまでに「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD2008」にて振付作 品『サカリバ007』でオーディエンス賞受賞。横浜ダンスコレクションR2010にてソロダンス『女生徒』で未来へはばたく横浜賞受賞。近年は身体のもつ面白さを幅広い層に提案するために、作品上演だけでなくプロデュース公演やイベントも多数企画している。
白神ももこ Momoko Shiraga
東京都出身。無意味・無駄を積極的に取り入れユニークな空間を醸し出す振付・演出には定評があり、自ら作・演出するモモンガ・コンプレックスでは、ダンス・パフォーマンス的グループと名づけ、ダンス?な活動を通して世界の端っこに焦点をあてる。
2011年より急な坂スタジオの坂あがりスカラシップに選考され活動。近年では、『ご多分にもれず、ふつう。』(STスポット)や『秘密も、うろ覚え。』(山手ゲーテ座)などがある。
最近では、音楽劇『ファンファーレ』や木ノ下歌舞伎『義経千本桜』に演出で参加したり岡崎藝術座の神里雄大とのユニット鰰[hatahata]など共同制作も多い。
また、F/Tモブ、北九州演劇フェスティバルのパレード演出など街にダンスを沸きあがらせる企画に携わる機会も増えている。
筒井潤 Jun Tsutsui
演出家、劇作家、俳優。2007年にdracomの作品『もれうた』で京都芸術センター舞台芸術賞受賞。dracomでの活動の他、『女3人集まるとこういうことになる』におけるダンサーへの演出や、DANCE BOX主催『新長田のダンス事情』パフォーマンス演出、高槻シニア劇団そよ風ペダルの講師を務める。また、山下残振付作品やマレビトの会、KIKIKIKIKIKI、維新派、作:松田正隆・演出:松本雄吉『石のような水』などに出演。
スタッフ
振付・出演:きたまり、白神ももこ
演出:筒井潤
衣裳:臼井梨恵(モモンガ・コンプレックス)
照明:藤原康弘
音響:荒木優光
舞台監督:浜村修司
宣伝美術:斉藤高志
主催:急な坂スタジオ
共催:横浜市文化観光局
お問い合わせ
急な坂スタジオ
045-250-5388