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「余計なお世話です」番外編〜綾門と加藤の往復書簡〜

 2018年秋から急な坂スタジオのHPにて、綾門優季さんによる連載「余計なお世話です」を掲載してきました。公演ごとの舞台批評だけではなく、舞台芸術全体の課題などを交えながら、たくさんの方からのご協力の元、連載を続けてまいりました。
 この数ヶ月、社会全体にとっても、舞台業界にとっても、厳しい状況が続いています。この状況の中で、今語られるべきことをどのような形で掲載するのが良いか話し合い、綾門さんと加藤(急な坂スタジオディレクター)の手紙でのやりとりを掲載することにしました。

 二人のお手紙を、こっそり一緒にのぞいてみましょう。

※『往復書簡 6通目(加藤→綾門)』を更新しました。

「余計なお世話です」番外編〜綾門と加藤の往復書簡〜

★往復書簡 6通目(綾門→加藤)

加藤さま

お世話になっております、綾門です。

ご質問の件、あまり迷わず、私の中で答えが出ました。まず最初に行く場所としては、このような状況が続くようであれば年度内は難しいでしょうが(Go To トラベルのように東京都だけ除外となる措置も「それはそうですよね」という言葉が浮かぶ、諦めの早い都民です。神奈川県もどうでしょうか、アラートも出たことですし、いっしょに除外されませんか…?)いわて銀河ホール高校演劇アワードでしょうか。

急な坂スタジオの加藤さまと持田さまのお二人しか知り得ないことですが、このような事態になっていなければ、私はもう一度、昨年度に引き続き、連載で高校演劇アワードについて、扱う予定でいました。あの打ち合わせは、高校演劇アワード2020そのものが中止と発表されたことで、幻になってしまいましたね。程なくして、演劇を観ることそのものがどこでも出来ない状態に陥り、この連載が劇評連載の体裁を保てなくなりました。協議の上、現在の往復書簡スタイルに着地しましたが、まさか未だに往復書簡を続けており、演劇を生で観られないまま(一応頑張れば観られるのですが、目の前の現場である「吉祥寺からっぽの劇場祭」に集中していてほとんど時間が取れません)このまま吉祥寺シアターの奈落へと放り込まれることになるとは想像していませんでした。(※1)

東京都の舞台芸術の関係者の多くは、震えるようにして毎日の感染者のニュースをみているのではないでしょうか。状況として色々違う部分も大きいとはいえ、現在は「緊急事態宣言の時より感染者数が多いが、何故か緊急事態宣言の出る気配は感じられない状態」です。7月、8月と実施が告知されている公演は私のものも含めて(私のやるものを「公演」と呼ぶのは間違っている気がしますが…なんでしょうかねこれは…)多数ありますが、とはいえこのまま感染拡大を野放しにするわけにもいきませんから、素人の予想では少なくとも東京都だけでも、恐らくどこかのタイミングで緊急事態宣言を出すしかなくなるのではないでしょうか。それは果たしていつなのか。ほぼ無観客開催、演目の内容も感染リスクが極限まで低いものが揃っている(※2)とはいえ、私たちのフェスティバルはそもそも千秋楽である8月9日(月)まで無事走りきれるのでしょうか。チーフ・キュレーターのキュレーションそのものを直接的に脅かすような現実の数々に、私に出来ることはもはや、天に祈ること以外にないのではないか、という気持ちになりながら、毎日の業務にあたっています。必要は発明の母といいますが(なんで「母」なのと思うので、このことわざはあまり好きじゃないですが)必要とされているものをたとえ発明しても、それを満足に届けられないのが、今の日本の社会です。コロナ禍と言わずに日本の社会と表現したのは、それが届けられているように見える国も少なからず存在するからです。

さて、加藤さまへの質問ですが、えーと、どうしましょう、本当に余裕がなくて…。「奈落に何を持っていけばいいでしょうか?」

劇場の奈落で生活したことがないのですが(誰があるのでしょう?)2週間以上暮らすわけですからそれなりの荷造りは必要ですし、かといって何を参考に持ち込むものを決めればいいのかよくわからず、途方に暮れています。コロナ対策のアルコール除菌ジェルとか、そういうものを持っていくのは当然として、他に何があると助かるのでしょう?

どういう質問よ、という感じで恐縮ですが、けっこう本気で困っているのです。

よろしくお願いいたします。

2020年7月18日(土)
綾門優季

※1 ▶︎吉祥寺からっぽの劇場祭「奈落暮らし」

私が吉祥寺シアターの奈落でフェスティバル期間中暮らし続けるという、めちゃくちゃ単純な演目です。これを演目と呼ぶことさえ、私自身、躊躇してしまいますが、他にやれることが思いつきませんでした。

※2▶︎吉祥寺シアター レジデンスプログラム「吉祥寺からっぽの劇場祭」開催プログラム一覧
日程:2020年7月23日(木)~8月9日(日)

★往復書簡 6通目(加藤→綾門)

綾門さま

なかなか梅雨が終わりそうに無いですね。実態のない祝日が続いて、今日が何曜日なのか怪しい毎日を送っています。

お返事、ありがとうございます。そうでしたね。また岩手で高校生たちと出逢えるよう、健康で過ごしましょう。奈落生活、始まってしまう前にお返事出来ずにごめんなさい。奈落で読んでください。

すごく好きなエピソードがあって、浅野忠信が何かのインタビューで「無人島に何か一つだけもって行くとしたら?」という質問に「Chara」って答えていて。この話をすると「人をモノ扱いするな」というお叱りか、「でも別れちゃったじゃん」というシビアな反応が返ってきます。
(実際にはCharaの楽曲に『無人島に私をもっていって…』っていうのがあるからなんですけど。)

でも、なんかいいなって、思いませんか?多分、奈落には何かでなく、誰かが必要なんじゃないでしょうか?だから「奈落への招待状」を書いてみることをお勧めします。

「奈落への招待状」

すごい字面ですね。火サスの副題みたい。古い推理小説とかにもありそう。

この数ヶ月、「劇場」って誰かや何かに出逢うための場所なんだって、改めて実感しています。作品を観るだけでなく、誰かとばったり再会したり、自分の中に新しい感情や感覚を見つけたり…あと、劇場の客席でたくさんの観客と一緒にいるのに「ひとり」を感じる瞬間とかも、すごく気持ちいいですよね。満席の状態でしか感じられない、劇場の醍醐味。

せっかく奈落にいるのだから、感染症対策&安全対策をバッチリして、1日にひとり、誰かを招いてみてはいかがでしょう?人生でなかなか無いですよね。
「ちょっと奈落に来ませんか?」って聞くことも、聞かれることも。
私の推薦は、急な坂食堂の森くんです。美味しい食事はもちろん、奈落に照明仕込んでもらうことも出来ちゃいます!

やっぱり劇場に必要なのは「人」に尽きるんじゃないでしょうか。誰がそこにいるのか、で劇場のカラーや雰囲気みたいなものが熟成されていくのだと信じています。作り手、劇場スタッフ、そして何よりも観客。全員が同じ時間・空間を共有するという、ごくごくシンプルなことが本当に恋しいですね。
とにかく健康と安全に気をつけて、素敵な奈落生活を送ってください。

今回のお手紙の私からの質問は「綾門さんが好きな劇場はどこですか?」です。
お返事お待ちしております。

2020/07/25 加藤弓奈

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