木ノ下歌舞伎『黒塚』
出演者
大柿友哉、北尾亘、武谷公雄、夏目慎也、福原冠
日程
5月24日(金)~6月2日(日)
24日(金) 19:30
25日(土) 19:30
26日(日) 15:00
27日(月) 19:30
28日(火) 19:30
29日(水) 19:30
30日(木) 休演日
31日(金) 19:30
1日(土) 14:00/18:00
2日(日) 15:00
演出・美術:杉原邦生 監修・補綴:木ノ下裕一
舞台監督:鈴木康郎、湯山千景 照明:中山奈美
音響:星野大輔 衣装:藤谷香子 演出助手:岩澤哲野
文芸:関亜弓
チケット
■ 前売・当日とも 2,500円
・木ノ下歌舞伎(5月24日~6月2日)
※規定枚数に達したため、ご予約受付を終了させていただきました。
■ セットチケット 8,000円
・ マームとジプシー3公演(【A・B・C】各1回)+木ノ下歌舞伎1回
※規定枚数に達したため、ご予約受付を終了させていただきました。
会場
十六夜吉田町スタジオ
〒231-0041 横浜市中区吉田町4-9
・JR根岸線 関内駅 北口徒歩5分
・横浜市営地下鉄 関内駅 6番出口 (イセザキ・モール方面)徒歩5分
・みなとみらい線 馬車道駅5番出口徒歩8分
Tel: 045-261-9830
ご予約・お問い合わせ
急な坂スタジオ お問合せページ
主催・企画・制作:急な坂スタジオ
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木ノ下歌舞伎初の舞踊劇『黒塚』上演決定から稽古まで
加藤 今回急な坂プロデュースで木下歌舞伎さんに『黒塚』の新作公演を5月24日から始めていただくわけですが、『黒塚』という作品を選んだのはなぜなんですか。
木ノ下 そもそも『黒塚』と言い出したのは邦生さんなんです。
杉原 こればっかりは直感なんです。次は舞踊をやってみたいとか、前回の『義経千本桜』(※1)は大人数だったから少ない人数で、とは先生(木ノ下)と話してましたけどね。
木ノ下 僕も最初提案されたときは、一回持ち帰って、なんでそう言ったんやろとか、こういうことをしたいってことなのかな、って考えたりしました。直感なのにね(笑)。でも『三番叟』(※2)も『勧進帳』(※3)も邦生さんがぽろっと言ったのがきっかけだし、結構提案されているんですよ。その(杉原の)直感を無理やり繋げていくと、必然性というか勝算が見えてきて「あーいけそう!」ってなるんですよね。
『黒塚』ってどうやっても地味な演目なんです。とても暗い。でも邦生さんとなら絶対違うアイディアが出てくるかもしれへんっていう。その明暗、演出家と演目のコントラストみたいなものでとりあえずいけるかもって思ったんです。もちろん舞踊劇がやりたい、変化物をやりたい、あと猿之助さんの襲名狂言の一つとしてメジャーになったこととか…そんな諸々がパズルのように合って、いいね!となったんです。
加藤 お稽古が4月8日から始まっているんですよね。今(注:稽古一週間目)、お稽古場はどうですか。
木ノ下 今、主軸は完全コピー(※4)ですね。毎回完コピから起こしていくんですが、実を言うと今回はしなくてもいいんじゃないかと話してたんです。でもいざ現場に入ってみると、やっぱり必要だなと思いましたね!
杉原 そうそう。温故知新じゃないけど、ベースを作った上で崩していかないと、やっぱり崩すっていう行為そのものが成立しない気がしています。僕らは「歌舞伎」って言っているけど歌舞伎俳優と同じことは出来ないっていう前提を、もちろん皆、頭では認識しているけど、身体全体で確認していくっていうことがかなり重要なんです。「じゃあ木ノ下歌舞伎でいう歌舞伎って何?」っていう問いに答えていく意味でも。
木ノ下 完コピをやらずに作った時期もあったんですが、邦生さんの提案で『勧進帳』の稽古からやり始めて。今思えばもはや完コピなしでどうやって作るんだろうって思うくらい、木ノ下歌舞伎作品には欠かせない稽古スタイルになりましたね。
加藤 『黒塚』は今までやってきた作品に比べて難しいほうですか?作品によってメジャーかマイナーかにもよりますし、今回の俳優さんも初めて『黒塚』を見たっていう人が多いと思うんですけど。
杉原 台詞的なことと舞踊的なこととに分かれると思っていて、今回はかなり舞踊の要素も多い「舞踊劇」だから、そこはやっぱり難しいですね。単純に声だとモノマネ的にある程度真似ることが出来るけど、身体の動きって日本舞踊を小さい頃からやっている人たちに染みついているものだから一朝一夕には出来ないというね。台詞回しについては『鮓屋』(『義経千本桜』公演にて杉原が演出した作品)みたいに世話物的な、ちょっと時代劇的な台詞回しのほうが真似しづらいんですよ。抑揚や音程が定まっていかないから。でも『勧進帳』とか『黒塚』みたいに能から様式をとっているものの方が、台詞は真似やすいんじゃないかなと思います。
木ノ下 同じ歌舞伎でも、純粋な芝居の演目の演技は、型にみえて実は感情の表現が裏にあったりだとか、様式の必然性が割とストーリーをなぞっていけばわかるんです。でも舞踊の場合、振り一つにしても単に感情表現だったり、パントマイム的なものだったり、何かを表わす記号だったりと一筋縄ではいかないから、独特の〈舞踊の言語〉を読み解く必要がある。だから今回は日舞の師範の資格を持っていて、『義経千本桜』公演に出演いただいた史(chika)さんに入ってもらって解読してもらいました。
加藤 要はクラシックバレエのように型があるってことですよね。「私は悲しい」とかの型が決まっているというか。
木ノ下 はい。それは僕らにはわからないことがありますからね。史さんは踊りながら説明してくれるので、それは作業としてかなり助かりました。
杉原 あと、いくらDVDを見たり台本を読み込んでも、俳優の身体を通して立ち上がってくるものを見ないと判断できないことがいっぱいあるから、そこで色々わかることや発見があります。キノカブは現場でやってみなければわからないですね。
急なスタジオプロデュース・十六夜吉田町スタジオでのクリエーションについて
加藤 今回急な坂スタジオのプロデュースで長めに劇場でクリエーションが出来る時間を設定しているのは、中でぐちゃぐちゃやって欲しいということがこちらの思いとしてあるんですけど、そのあたりはどのように作用しそうですか。
杉原 十六夜スタジオ周辺の猥雑な雰囲気というか、それが『黒塚』に合うんじゃないかなって感じていたので、すごくプラスに作用すると思っています!なんだか謎でしょ?あの空間って。ミステリアスな感じで。それも含めて、作品にとっても創作の場としてもいいんじゃないかな。
木ノ下 どの作品にも限らず邦生さんって空間性が強いから、入ってからバッと変えたりするんです。その構築して崩して、の作業をたっぷりできそうですね。
杉原 楽しみだよね~二週間半も入れるなんて!
木ノ下歌舞伎版・『黒塚』における演出・監修の視点とは?
加藤 作品をつくるときに、今生きている私たちの日常と、歌舞伎の作品のなかで描かれていることとがリンクするか、あるいはリンクしないかっていうことを考えながら監修だったり演出をしていると思うんですけど、『黒塚』はどんな手応えですか。
木ノ下 僕は古典を現代化することって、単に演目だけを取り上げて、新解釈を試みるということだけじゃなくて、その新解釈の向こう側に、アーティストの顔や問題意識が見えるっていうことだと思うんです。
加藤 そうでないと「よくこの作品を現代化したね」って外側だけの理由で見られてしまいもますもんね。
木ノ下 そうなんです。だから今回の『黒塚』は邦生さんとバランスよくその話が出来ている気がするし、やっていて心強いです。
加藤 木ノ下歌舞伎の公演では、取り組んでいる作品に対する演出家の思いだったり感覚だったりを、木ノ下さんが上手に拾い上げてテキストに反映させたり、ちょっとアドバイスしたり、それが演出に還元されて、という、この循環作用が常に働いているような感じですよね。
木ノ下 だといいんですけどね。
加藤 それが一番しっくりくるのが杉原さん。
木ノ下 そうですね。今まで何回も一緒につくってきたし、あの時はこうした、こういう展開になったっていうのがわかった上で、次どこへいこうっていうことが話せるじゃないですか。そういう意味ではやっぱりね…一番のパートナーですよね。
杉原 なんでちょっと照れたの?(笑)
僕は『黒塚』って舞踊と言っても強く劇性/ドラマ性を意識した作品だと思うんです。でも歌舞伎だと僧侶達が、お婆さんを裏切って鬼に変身させるためだけの存在になってしまってるのが気になってて。稽古初めの頃、先生に「僧侶が何考えてるか全然わかんない。上演みてもテキストみてもわかんない」って言ったんですよ。
木ノ下 ちょっと解説しますと歌舞伎の『黒塚』では老婆っていう異端な者がいて、それを外に囲んでいる常識人的な僧侶がいて、という構造があるんです。でも『黒塚』ってそもそもどうやってもお婆ちゃんが主役だし、お婆ちゃんの舞踊を観るための演目といえなくもない。もちろん歌舞伎のスターシステムではそれで成立してしまうんですけどね。でも邦生さんは、一回それをバラして読み解きたいと相談してくれてね。
杉原 うん。僕は現代劇の演出家だから、僧侶たちの行動にもすべてに理由や根拠があるはずだし、もちろん感情もある。そこをきちんと見せたいんです。僧侶たちはきっと、何か理由があってやってはいけないことをやったのだろうし、狙いがあってお婆さんを説き伏せようとするし、ってことをきちんと見せられるようにしたいなと。それによって「集団と個」の対比ができればと思っています。例えば個人でいることで楽なこともいっぱいあるじゃないですか。人と関わらないことで傷つかないですむとか、面倒な調整をしなくていいとか。反面、集団でいることでの強さや安心とかもあって、他人と「これが正しい」という共通認識を持つことによって自分を保つことができる、不安を消すことができるという側面もあると思うんです。どっちが良い悪いという対比ではなくて。どちらも見方によっては暴力的だし、どちらも人間の現象として正しいといえば正しい。それがきちんと作品に出たらいいなと思っています。
加藤 北尾さん以外、ダンサーではなく俳優の方ですけど、皆さん踊れそうですか。
杉原 そこが難しいというか、自分の中でもひとつ仕掛けが必要だなと思っています。でも歌舞伎版『黒塚』の形式をドラマ的にも解体しているから、「舞踊劇」という概念も一回解体、つまりお婆さんの踊りを見せるための作品じゃなくしたい。でないと、木ノ下歌舞伎の舞踊劇である『黒塚』として成立しないと思ってるんです。そう考えたときに、最初は(キャストを)ダンサーにしようかって想定していたんですけど、これは俳優の方がいいんじゃないかと思って今回の5人になりました。でも歌舞伎舞踊を完コピしてみて、その踊れていない身体っていうのは、それはそれで面白くて。自分たちの今の身体と歌舞伎俳優がずっと培ってきた伝承された身体との距離がそもそも違うから、そこは要素として使えるかなと。そういう意味でドラマ的にも構造的にも全部解体するっていうことが出来るなと思っています。でも、最終的に「これは舞踊劇だ」とお客さんが思える作品になったらめちゃくちゃ面白くなるんじゃないかな。
木ノ下“歌舞伎”と銘打つ理由、またそのハードルを越えるために
加藤 木ノ下“歌舞伎”ってついていますけど、作品としては全くの現代劇じゃないですか。例えば「木ノ下歌舞伎」と聞いて、歌舞伎を想定してくるお客さんとかとの齟齬ってあったりするんですか。「歌舞伎」っていう言葉が引っかかって躊躇しているお客さんがいるとしたら、もったいないなという気がしてしまって。
木ノ下 やっぱり歌舞伎を想定してきた人にも満足してもらいたいですよね。この間、邦生さんが「木ノ下歌舞伎の作品を観て歌舞伎を観たと思ってもらえたら最高」といってましたけど、まさに、現代劇のお客さんも歌舞伎を想定してきた人も、両方楽しんでもらいたいんです。古典って常にコンテンポラリーな存在だと思うんですよ。その時々で、同じ演目、同じテキストでもその上演される場/時代/国によって全然変わるし、常に更新されていくべきなんじゃないかと。反面、更新しなきゃいけないのに更新できてないっていう問題も多々あると思うんですよ。それが出来てる古典芸能もあれば、出来ていないように見える芸能もありますしね。木ノ下歌舞伎がつくっている作品は確かに現代演劇と呼ばれるものだけど、古典演目を新陳代謝させていくという側面においては、歌舞伎を含む〈古典芸能〉の大きな構造を継承しているつもりだし、手段や手法は違っても、そう歌舞伎とかけ離れたところにあると思わないんですよ。だからやっぱり、歌舞伎を想定して観に来てくださったお客様にも満足していただきたい。
加藤 観に来る前に「なんか歌舞伎なんでしょ?」っていうお客さんが多いのかもしれない。それは普通といったらおかしいですけど、いわゆる演劇にも同じことがいえる気がして。他の対談のときにもお話したんですけど、「わからなかった」といってくるお客さんは、わかりたくてきたの?って(笑)それはお客さんの期待値とかこうしてほしいと思ってることと、こっちが提供していることが上手くかみ合わない瞬間っていうがどうしても起きてしまうんですけど。
杉原 やっぱり歌舞伎って名乗ってるし、扱ってるものも歌舞伎演目だし、超えなきゃいけないハードルは(普通の現代劇より)多い気はしますね。でも僕としては歌舞伎を想定したお客さんに「これは歌舞伎です」という提示するために「何があればその作品と言えるか」というキーワードのようなものを先生に質問するんです。前回だったら「何があったら『鮨屋』だって言えますか」って。これは公演の度に聞くんですよ。
木ノ下 これね、すごい難問なんですよ。聞く方は簡単ですけど(一同爆笑)
しかも即答できないと「考えてないのかよ、チッ」みたいな顔するんですよ!昨日もね、「何があったら『黒塚』なんですか」って聞かれたので、ちょっと持ち帰りますって言って昨日寝る前にずーっと考えてたんですよ(笑)
杉原 そこは戦いだよね!
木ノ下 だから一番怖いんですよ、一緒にやる相手として。大抵の演出家は歌舞伎ってなんなの?っていうところから入るから、こっちは先回り出来るんですよね。邦生さんは何回もやってるから、そんな前提はずっと前に一緒にクリアしている。だから稽古始めから「即、本題」みたいな。常に刃物を首のあたりにあてられてるような感覚です。
杉原 あとは何を以て歌舞伎というか、っていうのは必ず考えるよね。見得が切れればそれが歌舞伎かというとそんなことはないし。それは毎回僕らが答えを出すためにというより、考えることが重要だと思っていて。僕らが掴んでないと、それは絶対お客さんに思ってもらえないから。
木ノ下歌舞伎のスタイル「演出と監修」の存在、その関係性について
加藤 演出家と監修とはどんな関係なんですか。なかなかわかりにくいですよね、監修ってなんだ?みたいな。お客さんに違う肩書で説明するとしたら何といえるんでしょうか。
木ノ下 これが適切かわかりませんけど「権力を持ったドラマトゥルク」だと思っていますね。もちろん演出家が出した案について、「主宰だからこれ変えろ」みたいなことは言いませんよ。そこは対話ですけど、最終的にどうしようもないってときは、この作品の上演は中止しますって言えちゃう立場っていうことですね。あとそもそも、この演出家でこの演目やりますっていうプランを考える。企画の言いだしっぺです。これはプロデューサー的な役割ですね。でも稽古場での居方はドラマトゥルクだと思います。
加藤 製作総指揮みたいな感じですかね。スティーブン・スピルバーグみたいな。
木ノ下 “すてぃーぶんすぴるばーぐ”がどのようなお仕事かわかりませんけど…
杉原 全体を統括する、責任を持ってるってことですよ、先生(笑)
加藤 あとアウトプットのイメージづくりみたいなものも、自分自身で上手にコントロールして、でも現場の監督は他の人に任せてという感じ?
木ノ下 はい。あと木ノ下歌舞伎って名前ついちゃうんで、極端な話、最終的に全部僕の作品になっちゃうんですよね。そこがドラマトゥルクとは違うところかもしれません。自分が作ったと思えるくらい思い入れを持てないと、名前だけになっちゃうので、それくらい思いつめるというか。あと一番意識するのは「演出家に恥をかかせない」ということですよね。例えば「木ノ下歌舞伎でつくった作品がへぼかった」となった場合、僕も責任とりますけど、どうしても一番バッシングされるのは演出家じゃないですか。そこはプロデュース団体の怖いところで、冠つけているから責任者ははっきりしているけど、やっぱり作品の責任は演出家にいっちゃいますから。そこで演出家の恥にならない、つまりその演出家にマイナスにならないようにっていうのは、意識していますね。
加藤 心強いですね。演出家にとっては。
木ノ下 いや~それがきちんとできていればね(笑)
『黒塚』の見どころ、個性的なキャストについて
加藤 『黒塚』の話に戻りますが、ここに注目してほしいということはありますか。
杉原 僕はすごい自分でトライだなと思っているのは、“舞踊劇”っていうこともそうですけど、初めて男性キャストだけでやるんですよ。男だけの世界じゃないですか、歌舞伎って。それを踏襲するから、その辺りがどう違うか見てほしい。あと単純にやっていて気楽ですね…男だけだから(笑)
木ノ下 あと空間ですよね。美術も邦生さんにお願いしていますから。現行の『黒塚』が持っている空間と、今回の十六夜の『黒塚』の空間がどう変貌するかという。
杉原 歌舞伎版の空間は不条理なところがあるんですよ!
木ノ下 そうそう!最初小さい電話ボックスのようなものの中に老婆がいるんですけど、まずはそこが家なんです。で、僧侶たちが出てきて泊めてくださいって訪ねてきて、木戸を通ったらさっきまで庭だったところが家になっちゃうんです(笑)能の空間性を踏襲しているからなんですけど。それでいて次の幕では本物そっくりの芒(すすき)が出てきて、超具象、リアリズムになっちゃうんですよ。それで終わるのかなと思ったら、最後にとどめさすように作り物の、なすびのお化けみたいな塚が出てき…具象の中に、いきなり虚構が出てきて、それでいて照明はバレエのすごいきれいな感じで。
杉原 あと俳優さんが毎回面白いけど、また今回面白いね。なんていうかね、タイプが全然違うんですよ、5人とも。
木ノ下 ほんとにそう!とても人間臭い生活感がある夏目さんがいて、ジャニーズJrみたいな大柿君がいて、歌舞伎俳優みたいな顔した福原冠ちゃんがいて、一見イカついBボーイみたいな北尾君がいて、そこに武谷さんが鬼女という役でいるっていう(笑)武谷さんって、演技上手いのに、どんなにちゃんとしようとしても良い意味の違和感がある感じがしてね。
杉原 武谷さん以外の4人の僧たちが、歌舞伎版の『黒塚』だと統一されたようなパターンに見えてますけど、こっちはすごいごちゃごちゃしてますから、ある種そこで間口が広がる気がするんです。いろんな人が投影されているっていう。で、武谷さんのなんかこう、寂しげな違和感があって。常に影がある。
木ノ下 この前、すり足の稽古中に邦生さんが演出つけて、武谷さんを先頭にして、少し距離を置いてあとの4人の僧侶たちに歩いてもらったら、もうそれだけで『黒塚』にみえたもんね。
杉原 あと俳優の話をすると、関東と京都の俳優って、そもそものリズム感が違うんですよ。どっちが良い悪いじゃなくて、関東は時間の流れも早いし、スピードが速いから、身体からにじみ出ているリズム感が16ビートなの。京都だと四つ打の「ヨイヤサ、ヨイヤサ」みたいな感じがしてて。だから、ああいう俳優は京都では絶対揃わないからこっちでしかつくれないと思うし、それが作品にプラスに作用したらいいなって思います。
「木ノ下×杉原」そして木ノ下歌舞伎の未来展望とは?
加藤 これから一年半位お二人でタッグを組んで作品をつくることが重なるということですけど、その先で挑戦してみたいことはありますか。
杉原 僕らの最終目標は歌舞伎座でやるということですから、歌舞伎俳優と一緒に。そのときは「木ノ下歌舞伎」としてではないと思うけど。キノカブ的には『木ノ下大歌舞伎』をやりたいんですよ。劇場を二週間位借り切って、再演と新作含めて何演目かやるんです。
木ノ下 そうそう!2016年に木ノ下歌舞伎が10周年なのでそこを目標にしてます。あといつか『仮名手本忠臣蔵』を通しでやりたい!これが具体的な二大目標ですね。これまで木ノ下歌舞伎で演出家として関わってくれた方々も新しい演出家も、もっと巻き込んでね。話は変わるけど、例えば今の現代演劇って相対的に見て物語が小さいと思うんですよ。例えば「個人的な感覚のみで一本作品つくっちゃう」とか、描かれる世界が狭くて小さいなと思ってたんです。で、僕らは古典を扱っているけど、果たしてそれがイコール大きい物語を扱っているかどうかってことですよね。大きい物語って、その物語を必要としている人たちがいたとして、その人たちの層が広いってことだと思うんですよ。一つの物語を扱っていても、10代から80,90代まで含めて何かしらみんなに引っかかる複数のフックのようなのもが用意されていることが必要で、その多面性みたいなものがあるのが、大きい作品だと言えると思うんですよね。だから個人的な感覚でつくったものも、突き詰めていくと、うんと大きくなる可能性だってある。逆に古典を扱っていても、まったく小さいということもあるわけで。だから〈大きい物語〉が希薄になってきている中で、もう一回しっかり〈現代が必要としている物語の役割とは何か〉に向き合う。かつそれが一種のムーヴメントみたいになるといいと思いますね。ここ数年でね。
杉原 基本は僕も同じです。木ノ下歌舞伎でやっていることも、自分のカンパニー(KUNIO)でやっていることも、どっちも古典とか有名な戯曲をやることが多いから、基本的に考えていることは同じなんですけど、僕の感覚の言葉でいうと「大きくしていく、広げていく」っていうことかな。そこは持っている言葉が違うし、具体的な話では違うかもしれないけど、(木ノ下と)共有できてる感じはするから、一緒に作業できるし、やってけるかなと思っています。その先に、『木ノ下大歌舞伎』があって、『仮名手本忠臣蔵』があると。他にも色々考えてますけど、大きいのはその二つだよね。
木ノ下 あと日本の伝統の演目を現代化するっていうのが、そう特殊なことじゃなくなって、木ノ下歌舞伎より断然面白い、古典を現代化する劇団とか出てきたらもう悔いないですよね。「打倒・木ノ下歌舞伎」みたいになったら嬉しい。で、木ノ下歌舞伎なんて古いとか言われて…
杉原 そうなったら僕らは歌舞伎座に行こうっていう(笑)
木ノ下 うん、それが出来たら小劇場も盛り上がっていいよね。でもそこまでが茨の道ですけどね。胃潰瘍になるか、円形脱毛症になるか、血尿出すか…
杉原 先生、長生きしてくださいね(笑)
※1 義経千本桜:2010年より3ヶ年継続でおこなった滞在制作企画「京都×横浜プロジェ クト」の締めくくり年に上演 された記念碑的公演。総合演出に多田淳之介、演出は白神ももこ/杉原邦生を加えた3名で担当。再終幕 は共同で演出が行われ、総勢 22名の俳優が出演する4時間半以上の大作となった。
※2 三番叟:「祝祭」をテーマにした木ノ下歌舞伎初の舞踊作品。演出・杉原邦生。2008年初演、2012年に再演された。
※3 勧進帳:歌舞伎演目の中でも特に人気の高い作品に挑んだ「京都×横浜プロジェ クト」初年度(2010年)の作品。木ノ下歌舞伎では『勧進帳』を「<関=境界>をめぐる物語群」として捉え、新たな作品を構築した。
※4 完コピ稽古:歌舞伎俳優が演じる舞台映像を手本に、動きから台詞の抑揚まで俳優がコピーしていく稽古方法。
下記の場所でお手に取ることが可能です。
【大学】
玉川大学/桐朋学園芸術短期大学/日本大学/明治大学/日本映画大学/桜美林大学/武蔵野美術大学/立教大学/東京藝術大学/多摩美術大学/映画専門大学院大学/早稲田大学坪内博士記念演劇博物館/慶應義塾大学/横浜日仏学院
【図書館】
横浜市立中央図書館/横浜市立旭図書館/横浜市立泉図書館/横浜市立磯子図書館/横浜市立神奈川図書館/横浜市立金沢図書館/横浜市立港北図書館/横浜市立栄図書館/横浜市立瀬谷図書館/横浜市立都築図書館/横浜市立鶴見図書館/横浜市立戸塚図書館/横浜市立中図書館/横浜市立保土ヶ谷図書館/横浜市立緑図書館/横浜市立南図書館/横浜市立山内図書館/神奈川県立図書館/神奈川県立川崎図書館
【劇場】
STスポット/こまばアゴラ劇場/横浜にぎわい座/にしすがも創造舎/あうるすぽっと/京都芸術センター
なお、『黒塚』公演ご来場のお客様には、もれなくお渡しいたします。
④アフタートーク
毎公演終演後に、木ノ下歌舞伎メンバーによるアフタートークを開催いたします。
昭和14年に初代市川猿翁によって創作・初演された近代の新作舞踊劇の金字塔。東北地方に伝わる鬼女伝説に取材した能「黒塚(安達原)」が原作。老婆と旅の僧の出会う芝居仕立ての〈上の段〉、僧に諭され、その嬉しさを老婆が舞で表現する〈中の段〉、信頼していた僧に裏切られた怒りから鬼女の正体を現し襲い掛かる〈下の段〉と、起伏に富んだ〈三段〉からなる。
人里離れた安達ケ原(現・福島県)のあばら家に岩手と呼ばれる老婆が暮らしていた。そこに通りかかった阿闍梨祐慶ら三人の旅僧は、日が暮れたので老婆に一晩の宿を乞う。老婆は自分の罪深さを彼らに語るが、祐慶はどんな人間でも仏教に帰依すれば成仏できると諭す。喜んだ老婆は「奥の寝室はけっして覗かないように」と言い残し、薪を拾うため山に出かけるが…。
「結局、阿闍梨祐慶ら坊さんたちが何を考えているか、わかんないんだよねー」
『黒塚』作品会議の中で、演出の杉原邦生氏が言った。
現行の『黒塚』は、起伏に富んだ三段構成で、振付も繊細、その上、長唄が名曲ときているから、文字通り〈名作〉だ。しかしながら演出の主眼は、老婆(鬼女)の孤独さ、陰鬱さ、凄惨さなどに重きが置かれているし、老婆を演じる俳優の場面に応じた踊り分けが大きな見どころになっており、ゆえに彼女を取り囲む僧侶たちが単なる引き立て役に陥り過ぎている感は否めない。
冒頭の演出家の言葉は、「歌舞伎は役者の芸を見るもの」という自明な前提を飛び越えて、今『黒塚』の物語を通して何が語れるか、という革新的な〈問い〉でもある。
杉原氏と単独でタッグを組むのは三年ぶりとなる。その間に彼は多数の作品を発表してきたが、例えば近作『更地』(2012)『椅子』(再演2013)では、前衛劇、不条理劇である戯曲の中に夫婦の情愛・未来への憧憬を見出し、〈現代だからこそ成立する大きな物語〉として描き直してみせた。
だから、今回の『黒塚』における彼との共同作業は、単に伝統的な身体性など歌舞伎的手法の現代化に留まらず、古典演目の中に〈現代が必要とする物語〉を紡いでいこうとする試みでもあるのだ。
願わくば、日本各地に民話として「黒塚伝説」が伝播し、多くの古の人々が〈鬼女の物語〉を必要としてきたように、十六夜吉田町スタジオという小さな空間から発信される木ノ下歌舞伎版『黒塚』が、現代人に必要とされる〈大きな物語〉として再生されることを―。
木ノ下歌舞伎 主宰 木ノ下裕一
カンパニープロフィール
木ノ下歌舞伎
歴史的な文脈を踏まえた上で現行の歌舞伎にとらわれず新たな切り口から歌舞伎の演目を上演する、木ノ下裕一と杉原邦生による団体。古典演劇と同時代の舞台芸術がどう相乗作用しうるかを探究し、新たな古典観と方法論を発信、ムーブメントの惹起を企図する。あらゆる視点から歌舞伎にアプローチするため、木ノ下裕一が指針を示しながら、さまざまな演出家による作品を上演するという体制で、京都を中心に 2006 年より活動を展開している。
木ノ下歌舞伎