「余計なお世話です」番外編〜綾門と加藤の往復書簡〜

2020年5月7日

 2018年秋から急な坂スタジオのHPにて、綾門優季さんによる連載「余計なお世話です」を掲載してきました。公演ごとの舞台批評だけではなく、舞台芸術全体の課題などを交えながら、たくさんの方からのご協力の元、連載を続けてまいりました。
 この数ヶ月、社会全体にとっても、舞台業界にとっても、厳しい状況が続いています。この状況の中で、今語られるべきことをどのような形で掲載するのが良いか話し合い、綾門さんと加藤(急な坂スタジオディレクター)の手紙でのやりとりを掲載することにしました。

 二人のお手紙を、こっそり一緒にのぞいてみましょう。

※『往復書簡 3通目(加藤→綾門)』を更新しました。

「余計なお世話です」番外編〜綾門と加藤の往復書簡〜

★往復書簡 3通目(綾門→加藤)

加藤さま

お世話になっております、綾門です。

川原泉、知らなかったです。『美貌の果実』読んでみます。まだ途中ですが、絵で想像していたより、ぎっしり文字が詰まっているタイプの漫画なのですね。物語の始まりが火山の噴火からでビックリしました。

それにしても、理想のリーダー像…難しい質問です。ここ数ヶ月、「これこそが理想のリーダーだ!」と心の底から思えるような記者会見をみていないことだけは確かです(日本に限るなら)。どうしてこうも曖昧で後手後手で強きを助け弱きを挫く言葉が、日々、重要な地位にあるはずのリーダーのメッセージとして次々に伝えられるのですかね…。みぞおちを数回殴られたような鈍痛で立ち上がれません。最初の頃、それでも記者会見はしっかりみておこうという気持ちをぎりぎり持っていたのですが「なんか辛いし、自分の心を守るほうが大事だな、重要な情報そんなに言ってないし。」とシュルシュル萎んでいき、今ではあとからTwitterでザックリ内容を把握しつつ、映画を観たり、ラジオをきいたりするだけの生活になってしまっています。リーダーのメッセージを遮断しているわけで、ぜんぜん良くないのですが、言葉を受け取ろうとすると、どうしても生理的に無理で、秒で画面を消してしまいます。

ところで、新型コロナ、わけわからな過ぎて、少しづつ感染症について学んでいるのですが、つい最近、こんな言葉に出会いました。

 日本のリスク・コミュニケーションの教材の多くは、このような「上滑りしたコンテンツ」です。情報を呑み込んで、そのまま吐き出しているだけなんです。咀嚼して、消化して、自分のものにして、自分の言葉に換えたメッセージになっていないんです。
 「自分の言葉」になっていない言葉を遣ったメッセージが、人の心に届くわけがありません。
 (岩田健太郎『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』光文社新書より引用)

ですよね。って感じです。僕は昔から独特の意見をはっきり言ってきたつもりですが(時々あまりにも回りくどくて結局何を言いたいのかよくわからないのが致命的な欠点ですが)煙たがられたことも一度や二度、いえ、十度や二十度ではありません。誰も言っていないようなことを言うのは控えよう、世間の空気の流れに従おう、と考えるひとたちにとって、僕の言動や行動は意味不明に感じられるようです。ただその考え方が、今回は悪魔的に作用し、目眩がするほど最低な社会を生み出してしまいました。同調圧力は危機感を覚えるほどに高まっていますが、歯を食いしばって独特の意見をこれからも言っていきたいですし、独特の意見を言うことを恐れず、そのひとの感覚の伝わってくる言葉を紡ぎ続けるひとが、個人的にはリーダーであってほしいです。

話は変わりますが、いまツイッタランド(人を派手に燃やしたり、急に持ち上げてから地面に叩き落としたりする危険な見世物で有名な、地獄の遊園地です)は「演劇」と名のつくものに言及していると、突然知らない人に後ろから刺されるくらい、急速に治安が悪くなり始めています。具体的に名前は出しませんが、数々の演劇人たちが時代の犠牲者となりました。胸が痛みます。一方で、署名活動やクラウドファンディングといった、3月から特に活発化したものに効果的なツールであるのもまた事実です。そこで質問なのですが、

「今後ツイッタランドとどう付き合っていけばいいですか?」

そんなに嫌ならやめればいいという話もあるかと思いますが、ツイッタランドでなにぶん10年も生活していたものですから、唐突に出てしまうと「陸に打ち上げられた魚」みたいな状態になりそうで、未だに居座り続けてしまっています。

4月29日 綾門優季

★往復書簡 3通目(加藤→綾門)

綾門さま

こんにちは。加藤です。
緊急事態宣言が5月31日まで延長されるようです。どんなこともそうですが「終わり」を決めることは、何かを始めるよりずっと難しいのかもしれません。 

さて理想のリーダー像のお返事、ありがとうございます。「他者と違うことを恐れない」ということは同時に「他者を敬うことが出来る」ってことだと思います。相手の意見や言葉に慎重に耳を傾けるからこそ、相手との違いを見出せるからです。「あの人は変わっている」と誤解されがちですが…

私にとっては、ドイツのメルケル首相やニュージランドのアーダーン首相が理想のリーダーとして、とてもしっくりきます。原因と結果を具体的に説明してくれる冷静さと、「任せろ、大丈夫。」という安心感。意識的かどうかに関わらず、相手を追い詰めて根性論で「がんばろう!」というリーダーが一番信用なりません。立場がどうあれ、自分の言葉に責任を持つのは当たり前だけど、すごく難しいことであるのも事実ですね。このことはtwitterでも言えるんじゃないでしょうか。 

ツイッタランド、ちょっと覗いてみました。まさに地獄のようですね。気持ちに余裕が無いと攻撃的になるんでしょう。こういった人たちは、twitter弁慶なだけかもしれません。今回の質問、綾門さんはきっと何度も「twitterやめればいいじゃん」と言われてきたと思います。でもやめていないのには、きっとそれなりの理由もあるのでしょう。だから「今すぐやめろ」以外のお返事を考えています。

相談室plusを経験した綾門さんは良くご存知だと思いますが、急な坂は「公演というゴール」を設定しないようにしています。それは創造活動とは特別な一瞬ではなく、生活とともに続いてゆくものだと信じているからです。そして上演・公演の際に観客と出逢い、その生活が交差します。たまに訪れる小さな奇跡のような時間です。その経験をしたことが無い人には、「ふふふ。羨ましいだろう。」と思いましょう。 

どうせランドに行くなら、ディズニーランドに行きましょう。私は大好きなんですが、年に1、2回行けるかどうか。でもそのくらいの頻度だからこそ、また行きたくなるし恋しくなる。今は閉園中なのでなおさらです。

まずは頻度を減らすことから始めましょう。いきなりやめると反動も大きいので。署名やクラウドファンディングはそれぞれウェブサイトを持っています。スマホでtwitterアプリを開くのではなく、検索しましょう。そしてtwitterを見たくなったらこの言葉を思い出してください。 

「あれはただのつぶやきだ。」

そうです。見ず知らずの誰かのつぶやきです。誰かに聞かせるためでなく、なんとなく口からこぼれてしまったのです。綾門さんへのメッセージではありません。だからちょっと距離を置いて「あの人どうしてるかな?」とふと思った時に覗いてみてください。これでダメなら、やっぱり「今すぐやめろ」。

実はこの機会にボードゲームを始めてみました。見た目で選んだのですが、なかなか面白いです。 
アズール 
(様々なことが落ち着いたら、急な坂でスタッフと一緒にやりましょう。) 

今回は綾門さんがこの機会に新しく始めたこと、もしくは始めてみたいことを教えてください。お返事お待ちしています。

5月4日 加藤弓奈

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