Aokidのコラム「Drawing & Walking」第8回

ダンスだけではなく、絵や美術など様々なアプローチで踊り続けてきたAokidさんは、どんな言葉を紡いでくださるのでしょうか。
このコラムでは、ふと思い浮かんだことや、稽古場や様々な場所ですれ違った人・ことについて綴っていただきます。
Aokidさんの独特なリズムで綴られる文章をぜひお楽しみください!

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Aokidのコラム「Drawing & Walking」第8回

急な?!2023!

2023年。
正月、いつものように家の外に出ると家族単位の塊をよく見かけるように思った。家族単位の人の集まりというのは少しのんびりしている。いつも忙しい地域に住んでいるけど、この期間はいつもと違ったスピードで時の流れを感じるように思った。それをサポートするのは、連日続いた良い天気の良い日差しだった。埃がふんわり舞っているあの速度感と状況とが相まって。

年明け早々に神奈川県民ホールギャラリーで行われている企画展『ドリーム/ランド』でのパフォーマンスと、旧ノグチ・ルームで行ったWWFes2023のプログラム『対話について』(振付は山崎広太氏)の上演を終えた。

1月に入る前に怒涛の年末の振り返りを。
昨年12月はAFF2やらの助成制度の期間とYPAMが重なっていたせいか公演がとても多く、その数々の公演の中からいくつか選んで観に行った。その中から、この急な坂スタジオで行われたショーケースプログラムを振り返ってみる。
館長の加藤弓奈さんから聞いていた若手演劇グループを集めたショーケースに招待して頂いた。
4組は全て初見の緒方壮哉、ルサンチカ、新田佑梨×関田育子、エリア51。
急な坂スタジオの様々なスペースを舞台に見立てて上演していく。館内を観客は案内されながら作品を観ていくことができ、施設自体の紹介にもなっているし、アテンドも急な坂のスタッフの為、人のことも覗き見るような感じがあった。確かにこの急な坂スタジオは使っている部屋やいる時間帯によって、建築の構造もあると思うけど、かなり違う時間が流れていく場所であった。

広い空間を演出に用いて俳優の世界観にこそ意識が向かうような狙いを見せる緒方チーム。
密閉したとわかる閉じられた空間に観客ごと入ってもらい、強迫感さえパフォーマンスとして立ち上がるような上演を行った新田×関田チーム。
演出方法として、いわゆる演劇に期待されてしまう傾向とは違うところからのアイディアを採用し、上演としたルサンチカチーム。
中でも僕が気になり楽しめたのはエリア51で、2つある上演ヴァージョンのうちの一つ(小松弘季Ver.)を僕は見た。面白いと感じたのは、一人芝居として俳優の小松が放つセリフ群は「役」として観客への投げかけを持ちながらも、今、この役に取り組んでいる彼自身を駆動させるためにうまく働いていたことだ。時折劇中、手元に乱雑に散らばった漫画を手に取って漫画家の名前やタイトルを読み上げるだけで、その漫画への興奮やその漫画が持ち得た文化圏における効果までが鑑賞者に現れえる。たとえば”今日から俺は”と言うことが、この劇中の心の叫びとも受け取れるような。また”ペラペラ”と発される言葉もオノマトペとして様々な機能を持って響く。作品が大枠の意味の醸成のためにだけでなく、俳優のパフォーマンスのためにも機能しているように感じられる作品だった。それゆえ、俳優自体のパフォーマンスにかかっているライブ性こそが作品と鑑賞者の行方を決めていくようでもあり、楽しいと思えた。

ショーケースが終わるとその日はKAATの芸術監督の長塚圭史さんによるアフタートーク。
お菓子とドリンクが配られ、ゲストと各発表チームと観客とが、フランクに作品について話をしていく。なんだかアフタートークだけど、結構緩やかな雰囲気。途中いきなり話を長塚さんに振られ、思わず色々とコメントしてしまった。充実した時間を過ごし急な坂スタジオを出ると例の如く真っ暗な夜の世界が公園を始め広がっていて、日ノ出町を目指す。

(たとえばこの一連の時間を若い人が感じられたら、もしかしたら劇場以上に今日の1日はそのカルチャーに触れる温度を持ったものだったのではないかぁと思った。意外にその日の客席は専門的な人が多くいる印象だったので。
演劇ということでのまとまりもあってこの4組のショーケース、館内案内、トークなど複数のプログラムをまとまって体感することができたようにも思う。じゃあ複数分野でだったらもっと互いが離れていくか?)

年末の早朝の江ノ島でのパフォーマンスに集まった人々と。

12月は他にも様々な公演がありテヅルモヅルだとかlal bansheesだとか千年とハッだとか山崎広太さんだとかいろいろ見に行った。映画だったらシネマ・ジャック&ベティでRAUの上映会なども。
初旬の自分の公演が終わってからは色々見に行きつつ、小さなパフォーマンスを江ノ島の砂浜でやったり、ストリートリバーでお世話になった渋谷の陸橋の掃除をしたりしていた。
さすがに年末にかけては上演形式で見ることにもバランス的に疲れてしまい、結構家で映画を見たり本を読んだりする時間を取り戻すように作っていけた。
考えれば、なんというか海外の映画や音楽を聴いたりあるいは絵をみたり本を読むことは、日本で完結する(と感じられる)のとは違う感覚があって、コミュニティを介さずに接触することが出来る良さがあるというのを考えた。
むしろたとえばダンスというのはどうしたってコミュニティを介さないといけないと感じた。
それで少しくたびれてしまったのかもしれない。いくらたくさんダンスがあろうとそれぞれのコミュニティを引き連れていて、それと対面するようにして鑑賞が起きるというか。
近いと感じるものを摂取し過ぎた反動か、海外のものを摂取することで、その距離感なりで少し落ち着いたり別の創作の刺激をひっそりと手にしていくような年末だった。
気付きとしては面白いとも思っていてダンスはコミュニティを介してしまうという見立ては、2023年も少し考えてみたいと思う。
それにしてもこの疲れている感じは、やっぱり中々外に広がっていかない今の状況というのも関係している気がする。


中華街にて俳優の石川朝日くんとダンサーの岡本優さんと

また2023年に出演予定の作品のリサーチで中華街の幼稚園を訪れた。そこでは子供たちとあるやりとりをしていて、その結果は今年の夏前に横浜で発表になりそうです。お楽しみに。
中華街の幼稚園というだけあって、中国や台湾といった国のルーツを持つ子たちもいて、彼らが話す言葉も日本語だけじゃない。
いくつか幼稚園は訪れたことがあるけど、そこの幼稚園は元気で活発な子が多く、何より先生たちが元気そうだという印象を受けた。それぞれの国の文化に取り組む授業もあって、廊下にはドラゴンが飾ってあったりする。
園自体に大きな家族の集まり感があって、何かいわゆる日本の幼稚園よりは緩やかな柔らかな感じ?(そんなに他を知っているわけでは、もちろんないのだけど)
先生はとても熱心で、終わった後も色んな話題を掘り下げて話すことができた。
幼稚園から出ると中華街が目の前には広がっており、まだそれでも午前中。仕事をしてきました!っていう感じがしない。海外にいる時のようなフレッシュな空気が広がっていて、物価も少し安いからそのまま昼食を食べに行ったりもした。
横浜は広く面白い。急な坂の方からこっちの方までも歩いて来れたりもする。
これだけ同じ町の中で顔や人や空気まで変わっていくのだし、また様々な文化施設もそれぞれで違う顔を持っている。一通り歩くこと、一本の線をひくことで変化が体に入っていくように、違う文化施設を行き来することでそれぞれに空気を通したり、顔に変化がもたらされるということもあると思った。

そうだった。12月にはKAATと中華街を行き来しながら、小田原スクランブル・ダンスプロジェクトのメンバーと踊ったり演奏者とセッションしたりするLAND FESによる企画にも参加し、中華街の実際のお店のエントランスで踊った。そこのお店の受付のおばぁさんはもう80近いだろうか。シタール奏者の田中悠宇吾さんとの2回のセッションを楽しそうに見てくれて、1回目と2回目を比べてちゃんと彼女のもとにダンスがもたらされたような感想を実感として言ってくれた。
その後に移動しKAATで小田原スクランブルのダンサーやお米さん、松岡さん、南雲さんなどと踊る。
小田原の人たちの中には人が近くにいることをその人の状態込みでよく感じ取ってくれる人がいるように一緒にいる時に感じられた。それは踊ってからでもそうで、だからこそこっちが相手が感じとってくれていることがわかるんだとも思った。そのことがこっちにも影響を及ぼす。優しい毛布?ベール?のような感じもあった。

もう少し次回も横浜の続きとして書きそうです。
時間が前後します。
年明けの神奈川県民ホールギャラリーで展覧会に合わせた発表とかについても!

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Aokidプロフィール


撮影:石原新一郎

東京生まれ。ブレイクダンスをルーツに持ち東京造形大学映画専攻入学後、舞台芸術やヴィジュアルアートそれぞれの領域での活動を展開。ダンス、ドローイング、映像、パフォーマンス、イベントといった様々な方法を用いて都市におけるプラットフォーム構築やアクションとしての作品やアクティビズムを実践する。近年の作品に『地球自由!』(2019/STスポット)、『どうぶつえんシリーズ』(2016~/代々木公園など)、『ストリートリバー&ビール』(2019~/渋谷)など。たくみちゃん、篠田千明、Chim↑Pom、額田大志、小暮香帆といった様々な作家との共作やWWFES(2017~)のメンバーとしての活動も。