Aokidのコラム「Drawing & Walking」第9回

ダンスだけではなく、絵や美術など様々なアプローチで踊り続けてきたAokidさんは、どんな言葉を紡いでくださるのでしょうか。
このコラムでは、ふと思い浮かんだことや、稽古場や様々な場所ですれ違った人・ことについて綴っていただきます。
Aokidさんの独特なリズムで綴られる文章をぜひお楽しみください!

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Aokidのコラム「Drawing & Walking」第9回

2023年の1月は2022年の12月の準備があった上で引き継ぐような形でめくれていった。年が変わる時は白いページがやってくるような気持ちがいつもある。
先日情報公開された今年の6、7月に行うKAATキッズ・プログム2023『さかさまの世界』のリサーチ、そして神奈川県民ホールギャラリーで昨年から何度か下見をしつつ稽古をしていたパフォーマンスの実施に向けて変わらず動いていた。

神奈川県民ホールギャラリーから依頼されたパフォーマンスでは、展覧会場を舞台美術のような背景として扱うだけではなく、観客として美術を見る際の鑑賞態度と舞台芸術を見る際の鑑賞経験みたいなことを行き来する操作を起こせないかと思い取り組んだ。
7者7様の展示スペース。部屋ごとのパフォーマンスとしてはほとんど何も起きないこと(パーカーを脱ぐとか映像を一緒に眺めつつほんの少しだけ動くとか)も含めて、あるいは鑑賞することのとりこぼしも含めて行なっていった。
『ドリーム/ランド』という展覧会に対して、”I dream lands”というパフォーマンスの作品が出来上がった。ツアー型で会場を回りながらパフォーマンスをしていく形をとった。観客にダンスを見るのか、展示作品を見るのか、その都度の選択が委ねられている部分も多く、しかも列をなして進むツアー型というのもあり、良いポジションを確保するのも難しい。そのため結果的に受け取る感想も分かれた。
発表当日は日本画を専門とする出品作家の山嵜雷蔵さんが2回も見てくれて嬉しかった。
これの発表前の年末に行ったIPAMIAという”パフォーマンスアート”(パフォーミングアーツではない)をアーカイブするプロジェクトのトークを聞きにいった際、何十年も前にこのギャラリーでアーティストの丸山常生さんが砂を使った作品を展示されていて、彼はアーティストでありパフォーマンスの作家でもあると思うので、その話を聞く機会があってとても良かった。

また設営日の下見や本番に帯同してくれたスタッフの方々が、KAATと県民ホールギャラリーを行き来しているという形態が面白いと思った。キュレーターの中野仁詞さんたちもKAATのホールや廊下の大きい壁面での展示をされている。つまり普段から美術と舞台芸術の行き来が行われている状態だ。
県民ホールはまた音楽もあるから、近い距離間に色んな分野が密集しているとも言える。

県民ホールへの下見の一方、同じ時期に『さかさまの世界』に向けての伊藤郁女さんたちとのリサーチがKAATで始まったのも面白かったわけだけども。
KAATでの稽古期間、近くのダンスハウスDaBYに立ち寄っていた伊藤さんが、「平原慎太郎さんによるワークインプログレスの発表があるから見にこないか?」とDaBYの唐津さんからお誘いをいただいたということで、みんなで少し早めに稽古を切り上げて見に行こうということになった。
DaBYには10分くらいで行けて、到着すると以前、小暮香帆さんのワークショップのサポートで訪れたときに見たダンサーたちがいたわけだけども、作品や課題に対してまったく対応が変わってくると当たり前のことを思った。畠中真濃さんという若いダンサーの子は、前回とは違う課題に対しても自分がそこにいることに対してポイントを作れているように感じられた。
KAATに戻り、また6月に!ということでいったん中華街を含めてのリサーチ、稽古期間が終わった。

横浜通いが終わってすぐ港区へ。
慶應大学三田キャンパスにある旧ノグチ・ルームでWWFes2023のプログラムとしての山崎広太さんの作品の稽古が始まった。テキストとダンスがいかに相互をサポートしていくのかを探っていくような時間が稽古を通して感じられた。僕はいちダンサーとして混ざり、他のダンサーとの共同作業は主に言葉だったり、振付というよりはストラクチャーを通して全体像が出来上がっていく。テキストを覚えるのもヌトミック以来だ。
とにかく複数、別のダンサーがいるのは慣れてなくてとても新鮮だった。身体やスピード、選択、勇気や恐怖の持ちどころの違いなどが感じられた。またダンスを差し出す度に共同での形作りの面白さを微妙に違う言語で話し合うようにして作っていった。
言葉とダンスの中で発狂的なしゃべりや、意味の伝達を放棄したたくさんの声量やバリエーションが生まれる時、それでも意味以外の言葉を発する身体だったり音だったり悲鳴めいたもの、合唱めいた圧みたいなのも含めて扱かうことで、やっとダンスと言葉との関係を再考できるところは確かにある、というようなことをやりながら考えていた。
また会場の空間は半透明のカーテンや窓ガラス、室内と室外、階段、インテリアなど様々な建築的な要素も、作品を効果的に一緒に切ったり貼ったりしていくことをサポートしてくれるようであったと思う。このことで建築というか空間が、いかに身体や仕草とかと密接に関係して普段からあるのかにも、まとめて気づけたような気がする。空間を作るということが言葉も動きも作る可能性、、、


KYOTO CHOREOGRAPHY AWARD2022 Aokid×たくみちゃん『HUMAN/human』©KCA2022(撮影:草本利枝)

1月の後半は京都にも行った。
JCDNによるKYOTO CHOREOGRAPHY AWARD2022にAokid×たくみちゃん『HUMAN/human』を上演しに行くためだ。
STスポットで7年前に作られた作品を、プロセニウムの京都ALTIホールで再演するため、作品の中で言及していた空間ごと上演に組み込むことを踏襲するため、かつてのWWFesの盟友の建築家木内俊克さんに美術をお願いをした。ミシェルゴンドリーのようなアイディアの返答があった。
そして京都や関東、宮崎などで活動をする映像作家で振付家のような”J “こと西純之介くんに京都のコーディネーターのような形で美術の制作などをお願いした。
これが蓋をあけてみるとまったくの別のクリエーションとなって何倍もの応答として返ってきた。
クリエーションとはかくあるべしというか、自ら舞台芸術のプレイヤーの役割を拡張していくような姿勢でさえあったと思う。西くんは僕らが木内さんのプランを実現するために早入りして京都で美術の制作をしているときに、ボランティアで協力してくれる人を探しつけてくれた。菅一馬、中西一志さんが加わってくれた。
西くん曰く、アーティストの近くで制作を見つめてもらい面白がってもらうことこそが本番よりも面白いみたいな話をしていた。美術の制作がひと段落したので、作品の終盤の”Enya”で踊るシーンを稽古し始めると、これが西くんにさらに火をつけてより積極的に映像を撮ろうと乗り出していった。
西くんは本番やゲネにこそ予定がつかず参加できなかったものの、会場でのテクリハに参加するなり積極的に介入し発言し短いテクリハの時間をサポートしてくれた。その日の夜、再度集まった時に、雪の残った歩きにくい道の中、自転車を押して歩きながら、いかに作品の中でのジュラシックパークのシーンが素晴らしいかをといてくれて。STスポットの上演では劇場の壁にプロジェクターを投影することをただ単に身体の延長にある振付として考えていたけども、今回、プロセニウムの舞台にSTスポットのハリボテの舞台美術があり、そこに投影されたプロジェクターの光がその先、ALTIホールの客席の方まで光が届くことを熱弁してくれた。西くんが映像専攻だったこともあり、3人ともちょっとだけルーツが近く、そのことについて改めて思い巡らすような感じが嬉しかった。

新たに舞台美術の制作などが必要になったため、他のアワード参加者たちより京都滞在が長くなり、それに伴って稽古場などをどうするか?の問題が出てきて、色んな京都の方に連絡して協力をしてもらうことになった。
これまで出会った人に再会したり、京都に引っ越しした友人などにも会っていった。
自分たちだけが発表して帰るのではなく見たり、交流したいという想いもあり、Theater E9に初めて行ってそこで”お寿司”の公演を見た。『RE/PLAY Dance Edit』でも一緒だったダンサーの斉藤綾子さんも出ている。以前見たakakilikeの『捌く–Sabaku』に出ていた男性の俳優も出ていた。斉藤さんは一緒に踊ったことはあったけど、外側から彼女を見ることはそんなにこれまでなかったので、改めて客席から見ることでどんなことをしてる人なのか、が少しわかるようだった。ほとんど演劇の作品的時間が流れる中で、ダンサーとしての蓄積がちゃんと豊かに麗しく溢れていた。
京都で斉藤さんのパフォーマンスを見たり、他の人と再会し飲み食いする中に時間の積み重ねを感じていた。
あるいはこれから積み重ねていく人との時間を想像した実感。
過去に積み重ねたことと、これからの予感とが、同じ卓に集まっているような、一望してそれらは”美味しい”という風に表現しうるように今は思えて。積み重ねることでえられる”美味しさ”。
何か続けていてよかったと思った。
こんな風に京都でコネクションできたのだから、この”人のパワー”みたいなものを各地でも感じられたら美味しそうな気がする。
色んな人にこの時間が訪れてほしいとも思った。


鴨川でのワークショップ(撮影:J)

京都ALTIホールでの上演が終わったあと、ロビーで批評家の竹田真理さんとも話した。以前から名前は知っていた方で実際に話すのは初めて。そこでは上演した作品以外のことにも話が及んだ。劇場以外で起きてくるダンスの可能性についてとか、ダンスにおけるローカリティの話だとか。他の様々な人ともロビーで話す時間が生まれた。ロビーという設計の上で。
それは嬉しい時間だった。劇場で行われるダンスについてどこまでも話すことが出来るかもしれないけど、またそれを扱うアワードに参加したわけだけども、やはりこの座っている椅子の上でダンスを見るだけでなくはみ出て考えないといけない。
この場所が作られるよりも前から踊っていたはずだし、他人を感じたり、動き合うといことを人はしているはずだから。年をとったり 何か困った時にそれらの”ダンス”が、人に、身体に、場所や時間に動員されること、ダンサーではなくダンスとしてあらゆるところに偏在しうる可能性をいよいよスピードアップして考える、やるべきではないか、と自分に対しても思った。
そういうことをたぶん改めて考えてもいきたい。これを書いていてハッとした。最近はどこか忘れがちだ。
なるべく考えを進めるので途中で出会ったらぜひ話しましょう。
あるいは話すのが遅かったらすぐにやりましょう。

3月にはakakilikeの制作のため再び京都へ!また何かを更新したい。
倉田翠さんとはこのため昨年からずっとキーピンタッチで連絡をとったり、渋谷のストリートに単身で踊りに混ざってくれたりKCAでの場所のサポート、稽古中にも覗きにきてくれた。いよいよそれをぐっと上げて束ねていく時間になりそう。今年は別の地域へ繰り出す予定がいくつかあるので、うまく交換し合う方法を見つけて循環みたくならないかな。

次回はWWFes2023の話などへ向かいます。

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Aokidプロフィール


撮影:石原新一郎

東京生まれ。ブレイクダンスをルーツに持ち東京造形大学映画専攻入学後、舞台芸術やヴィジュアルアートそれぞれの領域での活動を展開。ダンス、ドローイング、映像、パフォーマンス、イベントといった様々な方法を用いて都市におけるプラットフォーム構築やアクションとしての作品やアクティビズムを実践する。近年の作品に『地球自由!』(2019/STスポット)、『どうぶつえんシリーズ』(2016~/代々木公園など)、『ストリートリバー&ビール』(2019~/渋谷)など。たくみちゃん、篠田千明、Chim↑Pom、額田大志、小暮香帆といった様々な作家との共作やWWFES(2017~)のメンバーとしての活動も。