「余計なお世話です」番外編〜綾門と加藤の往復書簡〜

2020年5月28日

 2018年秋から急な坂スタジオのHPにて、綾門優季さんによる連載「余計なお世話です」を掲載してきました。公演ごとの舞台批評だけではなく、舞台芸術全体の課題などを交えながら、たくさんの方からのご協力の元、連載を続けてまいりました。
 この数ヶ月、社会全体にとっても、舞台業界にとっても、厳しい状況が続いています。この状況の中で、今語られるべきことをどのような形で掲載するのが良いか話し合い、綾門さんと加藤(急な坂スタジオディレクター)の手紙でのやりとりを掲載することにしました。

 二人のお手紙を、こっそり一緒にのぞいてみましょう。

※『往復書簡 4通目(加藤→綾門)』を更新しました。

「余計なお世話です」番外編〜綾門と加藤の往復書簡〜

★往復書簡 4通目(綾門→加藤)

加藤さま

お世話になっております、綾門です。

アズール、早くやりたいです。調べてみましたが、これは実際に会って盛り上がりたくなるゲームのようですね。

オンラインの様々なツールがある時代に生まれてきて良かったですが(スペイン風邪の頃に自宅にこもり続けるのはかなりしんどかっただろうなあ…)Zoomで埋まらないコミュニケーションのことをどうしても考えてしまいます。

新しいことといっても、ゲームばっかりやっている今日この頃なのですが、特にお勧めの3つに絞って、ご紹介したいと思います。

1.チェス

将棋もオセロも何度かやったことがあったので、コマの動かし方さえよく知らないチェスを選択しました。新しいことを始めたい気持ちがとっ散らかって、4月にかけて色々なものに手を出しましたが、今日までずっと続いているのはチェスです。なかなか奥が深いです(キャスリングってどのタイミングでやるのがいいんだろう?)将棋と違って、コマが復活できず、決着つくのが早い感じがします。性格的にすぐに攻め込んで返り討ちにあいやすく、まだ全然弱いです。よろしければ、オンライン対戦しませんか? 

2.モニュメントバレー

アズールが好きなら、と思ってチョイスしました。グラフィックがとても美しいスマホでやれるパズルゲームで、クオリティーは高いですが安価です。ストーリーを進めていくと登場する、意味深な言葉も好みでした。『モニュメントバレー2』も良かったですが、ストーリーがわかりやすくなっていて、1の謎めいた世界観のほうが魅かれるものがありました。難しすぎて、途中、攻略サイトをみてしまったのが地味に悔しかったです。

3.ポケットモンスター ウルトラサン

ペットショップで仔猫や仔犬がよく売れるというニュースが国内海外問わずありました。家にずっといると、何かを育てたくなる気持ちが強くなるのはわかる一方で、しかし、その気持ちは一時的なものかもしれないですし、その人たちはペットの最期まで看取る覚悟があるのだろうか? とつい思ってしまいます。私は間を取って(?)ポケモンを育てています。先日、デンヂムシ(電池みたいな虫)がクワガノン(クワガタみたいな虫)に進化しました。ピカチュウは可愛さを優先して、あえてライチュウに進化させるのを見送っています。ポケモンはポケモンで一部の動物愛護団体から苦情が来ているのですが、これは流石に無理筋というか、そんなこと言ったら人を撃つゲームはいいのかよみたいな疑念も浮かびますし、少なくともゲームの中の生物と現実の中の生物を等価で考えられないようなところが私にはあります。戯曲を書いている時、登場人物にどこまでも残酷になれるのも似た感覚があります。

ところで、このゲームの中には「げきだんいんのヒバリ」というキャラクターが登場するのですが、これには演劇に関係するTwitterの一連の炎上のことを思い出しつつ、ネガティブな意味で考えさせられました。「げきだんいんのヒバリ」は、各地に登場する、俳優の夢を追い、演技を勉強するために、様々な役を演じる姿を、出会ったばかりの他人である主人公に観て欲しいと度々迫ってくるポケモントレーナーで、正直鬱陶しいです。これは様々なフィクションで出てくる「げきだんいん」にも言えることなのですが、どうしても偏見を感じざるを得ません。

1.夢を追っているわけではなく、多くの俳優は仕事を淡々とこなして日々の生活を送っている、何も特別なことはない、ひとりの人間である
2.劇団員は「俳優のタマゴ」だけではない

上記は演劇をやっている方にとっては極めて当たり前のことですが、演劇に接していない方にとっては当たり前のことではありません。一部の方には、目立つひとたち(目立たざるを得ない役割のひとたち)しか見えていないのかもしれません。わざわざ言うことでもないですが「演劇人」は俳優と劇作家と演出家だけではないわけです。その人たちは、演劇に関わる、ごく一部の人たちに過ぎません。ただ仕事を奪われ、言葉がなかなか届いていない「演劇人」たちのことを想い、落胆してしまいます。例えば、今後の劇場再開に向けて、異様に気を配らなければならない舞台監督のインタビューや制作者のインタビューを、今、切に読みたいです。

というわけで、私からの質問(というよりお願い)ですが、こちらについて、お読みになりましたでしょうか。

全国公立文化施設協会のガイドライン(PDF)

全文通読して天を仰ぎましたが、これを遵守して劇場再開するというのは、ハードルがかなり高いように思われました。公演として破綻するものもあるでしょう。急な坂スタジオをはじめ、数々の劇場や施設の職員を経験してきた加藤さんから、こちらのガイドラインについての見解を伺いたいです。

よろしくお願いいたします。

5月17日(日)綾門優季

★往復書簡 4通目(加藤→綾門)

綾門さま

こんにちは。ここ数日急に寒いですね。先週は夏みたいだったのに…

首都圏と北海道以外の緊急事態宣言が解除されるようですが、明らかに5月7日以降人出が増えているので、様々なバランスが難しくなってきているなと実感しています。野毛の居酒屋さん達は、ランチ営業やテイクアウトで頑張っています。一方で閉店し、すでに更地になってしまっているところもあります。

大人数で賑やかにお酒を飲んだ日が、遠い記憶になってきました。

お返事、ありがとうございます。チェス!実は、やったことがないのです…(白黒つけるオセロは大好きなんですが。)この機会に始めてみようかと思います。一通りやり方がわかったらオンライン対戦しましょう。お互い頑固で負けず嫌いだろうから、とっても大人気ない試合になりそうで楽しみです。

モニュメントバレーは早速始めました。ビジュアルが綺麗で、余計な説明が無い感じがとてもいいですね。コツコツ進めてみます。

(※追記 えーっと、すごいハマりまして、1日で全ステージクリアしてしまいました… )

ポケモンは一瞬だけポケモンGOをやりました。急な坂スタジオが、ポケストップになっていたので。もともと経験値を積ませて成長させるのが極端に苦手なので、なかなか手を出せずにいます。しかしながら「げきだんいんのヒバリ」に会うためだけにちょっとやってみたい気もします。

最近よく感じているのですが、「未知の観客(まだ演劇を見たことがない人、興味がない人)」と「(大きくざっくり)演劇人」と「観客」の、それぞれが分断してしまっているような気がします。だからこそ相手のことを想像出来ない、もしくは単なるイメージだけで判断する、ということが起きているのだと思います。文化や芸術は社会と密接に繋がっていて、たとえ直接鑑賞しなくても大きな影響を与えあっているはずです。どんな時でも、ほんの少しの想像力を忘れないでいたいと思っています。

さてガイドラインの件ですが、よくよく読みました。そのために、まずは印刷しました。メモ書き込んだり、マーカーで色をつけたりしながら読みました。率直な感想としては「普通のことしか書いていない」です。

衛生管理(手洗い・消毒)の徹底が重要であり、行列(チケット窓口・売店・トイレなどなど)は、間をしっかり開けましょう。関係者・観客の緊急連絡先をきちんと把握しましょう。これって、いつでも大切なことです。私自身、パーソナルスペースが広くないとしんどいので、行列の間が広いのは最高です。私みたいな人にとっては満員電車は地獄です。高校生の時、通学が辛すぎて一駅ずつ降りていました。この状況でちょっとハッピーになっている人も少なからずいるはずです。

確かに、客席を間引かなくてはならないかもしれませんが、自治体の判断とそもそもの客席環境で考える必要があり、「どの劇場も総席数の◯◯%にせよ」という訳ではありません。仕込みやバラシには、いつもより時間をかけなくてはいけないでしょう。でもこれも前向きな要素だと思います。こんな状況だからこそ、これまでと違う使い方を出来る機会だと思うと、ワクワクしませんか?間隔の空いた客席だからこそ出来ること、新しいスタッフワークの可能性を探ってみること、などなど、色々考えられる気がしています。

何よりも怖いのは、稽古場や稽古期間に関しての情報が「十分な感染予防措置を講ずるようにしてください。」としか記載されていないことです。創作は劇場に入ってからスタートするのではありません。共有する時間は、稽古期間の方が長い人も多いでしょう。新しい創作環境のあり方を考える時期なのかもしれません。

最近、急な坂スタッフのオンラインミーティングでは「急な坂の新しい使い方」について話し合っています。綾門さんなら、どんな使い方をしてみたいですか?お返事、お待ちしております。

5月21日 加藤弓奈

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