「余計なお世話です」番外編〜綾門と加藤の往復書簡〜
2018年秋から急な坂スタジオのHPにて、綾門優季さんによる連載「余計なお世話です」を掲載してきました。公演ごとの舞台批評だけではなく、舞台芸術全体の課題などを交えながら、たくさんの方からのご協力の元、連載を続けてまいりました。
この数ヶ月、社会全体にとっても、舞台業界にとっても、厳しい状況が続いています。この状況の中で、今語られるべきことをどのような形で掲載するのが良いか話し合い、綾門さんと加藤(急な坂スタジオディレクター)の手紙でのやりとりを掲載することにしました。
二人のお手紙を、こっそり一緒にのぞいてみましょう。
※『往復書簡 2通目(加藤→綾門)』を更新しました。
「余計なお世話です」番外編〜綾門と加藤の往復書簡〜
★往復書簡 2通目(綾門→加藤)
加藤さま
お世話になっております、綾門です。
これを書いている今日は4月7日、そうです、緊急事態宣言が出された日です。
コロナビールを飲みながら、あっちこっちの会見をチラ見しつつ、Twitterで世間の反応を追っていました。
神奈川県も、緊急事態宣言の対象に入りましたね。
余計なお世話です、と言われるかもしれませんが、愛知県が入っていないのは意外でした。(※1)
どなたに言えばいいのかわかりませんが、状況的に全然入ってていいと思います。
お願いします、入れてあげてください。
怒りについて、ありがとうございます、とても納得出来るご意見でした。
おかげさまでだんだん怒りは収まってきましたが、代わりに形容しがたい不安にふいに襲われるようになりました。
専門家でもないのに、たくさんの情報と数字を浴びるようにみてしまい、うまく整理もできず、ただただ不安になるのを防ぐためにはどうすればいいのか。
このタイミングで情報を遮断するのも、それはそれで微妙ですしね。
なかなか難しい日々ですが、幸せな日々に作り変えていかなければなりません。
サミュエル・ベケット『幸せな日々』のことではありません。
日常を設計し直すのは、本当に時間がかかって仕方がないです。
演劇を観ないことにはようやく慣れてきましたが、それもいいのかどうか。
コロナがあけた頃(いつになるかわかりませんが)、劇評連載していた体を、果たして取り戻せるのでしょうか。
さて、ご質問ですが、実は家で映像を観る習慣があまりありません。
休むときにアイマスクをよくつけているのも一因でしょうか。
もっぱらラジオと音楽です。
ラジオは「荻上チキ・Session-22」「ハライチのターン!」「問わず語りの神田伯山」欠かさず聴いている番組がすべてTBSです。あと「空気階段の踊り場」「ACTION」(特に武田砂鉄の回)も。
音楽はポップしなないで、ニガミ17才、ギリシャラブなど「歌詞が割と変な邦楽」に趣味が偏っています。
ポップしなないではほぼ毎日配信っていう、音楽関係なくてもとにかくなんか配信するっていうのをやってて、面白い動きだなあと思っています。(※2)
映画館には、こうなるまで結構行っていました。早稲田松竹で観た映画を今回は紹介します。早稲田松竹もそうだし、アップリンク、何とか持ちこたえて欲しい…!(※3)
今、という視点で選んだのは、ラース・フォン・トリアー監督『メランコリア』です。映像配信ですと、U-NEXTで観ることが出来ます。
ざっくり言うと「人類が滅亡しそうになってすごい揉めたあと、1回大丈夫みたいな雰囲気が流れてとりあえずほっとしてたら全然そんなことはなくて、結局滅亡する話」です。
疫病で滅亡する訳ではありませんが、人類の愚かさここに極まれりという感じで、現在の日本はこの愚かさの再現にも思え、また違った心地が味わえるのではないかなと。
タイトルの通り、鬱々とするので、精神状態が良くない時に要注意の作品ではあります。はっきり言って何の希望もないです。
僕も近いうちにもう一度観ます。
さて、質問ですが、「今オススメの1冊は何ですか?」
蛇足ですが、僕はドストエフスキー『死の家の記録』を読み始めました。
まだ途中ですが、外部から隔絶された世界である獄中記、家にずっと居続ける今とも重なるようでとてもいいです(いいのか)?
よろしくお願いいたします。
綾門優季
—–
※1 愛知県、その後すぐに、思ってたのと違うかたちで出ました。緊急事態宣言。
▶︎NHKニュース|NHK NEWS WEB
※2 これが好きでした。
仕事がないポップしなないでのかめがいが、どうぶつの森で仕事を探す①
※3 劇場も大変ですが、映画館も大変です。特にアップリンクは渋谷も吉祥寺も、愛着のある映画館です。みなさまもこちら、ぜひご検討ください。ラインナップ、観た中でのオススメの1本は『トム・アット・ザ・ファーム』です。
▶︎アップリンクを応援してくださる皆様へ:「アップリンク・オンライン・マーケット」で寄付込み見放題プランはじめました。|UPLINK
また、こういうクラウドファンディングも始まりました。
▶︎未来へつなごう!!多様な映画文化を育んできた全国のミニシアターをみんなで応援ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金
★往復書簡 2通目(加藤→綾門)
綾門さま
こんにちは。加藤です。
今twitter上は、とある動画でざわついています。個人的には、紅茶を飲むことで国民を安心させられるのはエリザベス女王だけだろう、と思っています。
さて、前回のお手紙から急な坂の状況も大きく変わりました。3月中も利用の無い日は休館、横浜市在住以外のスタッフはお休みとしていたのですが、現在は5月6日まで臨時休館としています。様々な人が使ってくれることで、急な坂スタジオは成長してきました。今はきっと「待つとき」なんでしょう。この期間だからこそ出来ることを考え続けたいと思っています。以前の日々を取り戻すよりも、新しい日々を迎えるための備えをしようと思うと、不安より期待が大きくなるかもしれません。楽観的すぎるのかもしれませんが…
オススメ映画、「綾門さんらしいな」と思いました。この状況で、ザ・鬱映画!
学生時代に映画館で「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を見て、自分でも驚くほど嗚咽して、生まれて初めて映画作品に対して「二度と見直さない」と心に決めた日が懐かしいです。この決心は今でも揺らいでいません。「メランコリア」も一度しか観ていないのですが、映像&音楽が美しくて、そんなに憂鬱に感じなかった気がします。「ダンサー〜」に比べてって、だけかもしれません。この機会に見直してみます。
もし私がラース・フォン・トリアーでオススメするなら「キングダム」ですね。デンマーク国立病院が舞台のドラマ作品です。放送当時の視聴率、50%とかだったらしいですよ。アメリカでスティーブン・キングが「キングダム・ホスピタル」としてリメイクしていますが、こちらはかなり脚色されていて、キング色が強いです。まあ、それはそれで面白いので機会があればお試しください。
綾門さんのお手紙を読んで、久々にラジオが聞きたくなりました。あと最近、邦楽を聴いてないことにも気がつきました。悲しいことですが、30歳をすぎると新しい音楽を聴かなくなる傾向があるそうです。(早いと25歳くらいから)だから演劇であれダンスであれ、公演を観に行って新しい音楽と出会うことが、いかに重要な機会だったのかと、身につまされます。
今回の質問、難しいですね。綾門さんが読書家なのは知っているし、普段絶対読まないものをおススメしたいし、憂鬱でも陰気でも無い作品を選びたいです。私は怒りや不安は他者からもたらされるよりも、自分自身で増殖・増幅させてしまうものだと思っているので、読書を通して火に油を注ぎたく無いな、と。
色々悩んだのですが、漫画を1冊選んでみました。川原泉ってご存知ですか?大雑把なジャンルだと少女漫画になるのでしょうが、大きな瞳とお人形の様なスタイルの主人公ではなく、なんというかすごく「地味」な感じの絵柄です。作品そのものも少女漫画っぽくなく、短編小説みたいというか。まあ、騙されたと思って読んでみてください。
川原泉「美貌の果実」
▶︎Amazonリンク
主人公はどちらかというと冴えなくて、なるべく静かに・穏やかに生活している人ばかりです。こんな時だからこそ、声が大きいだけの人たちに引っ張られることなく、本当に小さな切実な声を聞き逃さない様に、日々を過ごしていきたいと強く感じています。そんな気持ちにぴったりくる作品かと。
最近、宣言とか会見とかを以前よりも見る機会が増えましたが、響く・響かないがありますね。組織の大小関係なくリーダーには言葉を届ける能力が必須なんだなと、痛感しています。今回の質問は「綾門さんにとって理想のリーダー像とは?」です。お返事、楽しみにしています。
4月14日加藤弓奈
—–
★過去のお手紙の一覧はこちら!