公演直前インタビュー「タタタ対談」

初のソロダンス公演に挑む心境や意気込みについて、トークゲストでもあるドラマトゥルク・石橋源士氏をインタビュアーに迎え、本番をまもなくに控えた稽古場からお届けします。

「タタタ」 ひとつの振付、踊る男と女、ソロ×ソロ
3月27日(金)19:30/3月28日(土)14:00・19:30/3月29日(日)14:00
タタタ(tathata)とはこのままという意味。音楽を一音やひとフレーズごとに意味を求めずかたまりのまま飲み込み、楽しむように、かたまりのまま踊り(身体)を飲み込んでもらいたい。

踊りとは音楽かもしれず、仕種かもしれず、生活かもしれない。
でもやっぱり、踊りは踊りなのだ。
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坂あがりスカラシップ2008対象者・岩渕貞太による本公演「タタタ」は、
出演者に新進気鋭の若手ダンサー・酒井幸菜を迎え、
ひとつの振付を男女二人によってそれぞれに踊る、ソロ2本立てという上演形態です。

日本のコンテンポラリー・ダンスを彩る様々な振付家のもとで経験を重ねた
岩渕貞太の挑戦にご期待下さい。

坂あがりスカラシップ2008対象公演/岩渕貞太「タタタ」 詳細

目次
プロフィール
岩渕貞太

ダンサー・振付家。 玉川大学芸術学科にて演劇を専攻。在学中から踊りに興味を持ち始め、演劇と並行して日本舞踊・舞踏などを学ぶ。ダンサーとしてAPE・ニブロール・伊藤キム+輝く未来・Co.山田うん・Ko&Edge.Coなどに参加。国内外ツアーに多数参加。 2005年、初振付作品『smoke』を発表。2006年、ダンスがみたい!―批評家推薦シリーズ―に乗越たかお氏の推薦で参加し、『mint』『double』を発表。アサヒビール企画の稽古場カフェ~二代目店長をJOUと共に2006年9月から2ヶ月間担当。 2007年、清家悠圭との共同作品『yawn』を発表。同年、イスラエルの振付家Arkadi Zaidesの作品(急な坂スタジオの国際交流レジデンス事業)『DAAT』に参加。関かおりとの共同作品で多国籍プチフェスタin夢の島2007参加。1980年あたりに生まれたアーティストが集まったユニット、群々(むれ)のメンバー。

石橋源士

ドラマトゥルク。 91〜93年、YELLOWにてイベント・プロデュース、プレスを担当。99〜02年、(財)草月会にて、映画監督であり草月流いけばなの家元、勅使河原宏の秘書を務めた後、海外部に勤務。「インターキャンパスの創出による多文化共生の可能性」(02〜05年)など、多方面にわたる活動を展開。2008年12月には神宮前に目的や用途を限定しない空間、meconopsisの運営を開始した。
ドラマトゥルクとして、2007年10月には急な坂スタジオ国際交流レジデンス事業『DA AT』(アルカディ・ザイデス振付)、2008年11月「不思議の国のアリス」(仲田恭子演出)に参加。

その1「振付の強さを追求したい」
振付の強さを追求したい

石橋 今回は自主公演でもありながら、「坂あがりスカラシップ」という枠組の中でもあると思うんですけど、応募した理由はあるんですか?

岩渕 もともと来年度にソロの作品を作ろうと思っていたんです。その公演をする場所も考えなければと思っていたところにこの募集があって、稽古場と劇場の確保ができるとかいろいろな条件がある中でできるということがあって。スケジュール的にはかなり時間のない中で創作しなければならないということはあったのですが、来年度に向けてのステップを踏んでしまいたいと思ったんです。ちょうどいろんな考えが一時期に重なって、応募してみたら運良くやらせていただける機会をいただきました。

石橋 今回は何で2バージョンあるの?

岩渕 今までに自分が体験してきたカンパニーでは、振付というものはまずダンサーを見てその人から生まれてくるものを作品とすることが多くて、その面白さをずっと感じていたんですけど、振付が先に存在して、誰が踊ってもどんな風にしても魅力が出てくるような振付の強さを追求したいと思っています。海外だと他のカンパニーに作品を渡すということがあるんですよ。

石橋 それはあまり日本ではないの?

岩渕 全くないというわけではないんだけど、コンテンポラリーダンスではあまりこういう話は聞かないですね。だから自分の作品を誰かに渡すことができたらもっと面白いのにな、と思ったんです。

石橋 今回の振付というのは誰かダンサーありきではなくて、振付だけで独立しているような作品でありたい、という希望もあるということ?

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岩渕 自分の身体でなければ成立しないとは言いたくないんです。作り方としては自分の身体から作っていくということが大きいとは思うのですが、自分の振付が自分しか魅力的に上演できないというのではない創作を、結果的にではなく初めから意識的にしていきたいと。

石橋 ということは、例えば今回の場合だと貞太君はたまたま男性で酒井さんはたまたま女性ですけど、それが性別だけではなくアジア人だろうが黒人だろうがヨーロッパ人だろうが、同じく通用するような振付でありたいということですね。しかもそれだけではなくて、違うダンサーが同じ振付の作品を同じ日に前後してやるということは、厳密に振り付けられていたとしてもロボットが踊るわけではないから何かしらの違いが出てくる。でもこれはある意味では実験で、やってみないとわからないと思うけれど、今やる前の気持ちとしてどんな違いがあると予想していますか?

岩渕 自分にとっていい状態の肉体というのは適度に重さがあって、柔らかくて、何というか上質の「お肉」みたいな感じなのですが、酒井さんの身体を見たときに「お肉」の感覚ではなかったんですね。その中でそこ(自分の身体)を出発点にした振付がどう違うアプローチに見えてくるのかが楽しみです。女性だから質感が違うということではなくて、形(振付)が一緒なのに質感が全く別の素材になっていくことで、どう見えてくるのか。かなり未知数なところがあるのですが、ちょっとした時間の流れ方だとか身体の分節の仕方だとかそういった違うところを、どう自分が解釈して、どこでオッケーを出して、どこを自分の振付のオリジナルと合わせていくのかという作業が肝なのかもしれませんね。

石橋 振付は貞太君自身のも酒井さんのも同じものだと思うんだけど、演出の場合は酒井さんには貞太君自身を演出するものと違った演出をすることになりそうだよね?

岩渕 そうですね。空間とか音楽が違うといった話ではないとは思うんだけど、僕と同じ身体を求めようということを考えているわけではないです。振付までは一緒なんですが・・・。

石橋 身体が持っている質感がまず違って、今後もし同じ「タタタ」という振付を別のダンサーがやるとしたら、同じ男性でももっといろんな肉体を持っているわけですし、女性だってそうですよね。それは振付が一緒でも違いますよね。演出というのは解釈なわけで、持っている素材とか制約されているものに対して、そこにどのように指示を与えていくかということだと思うんです。そこで演出がどの程度変わってくるのかが僕としては楽しみなんです。

岩渕 今聞いて、何となくボヤボヤしていた違いというのが明確になってきた気がします(笑)。

石橋 この公演の情報を見て、面白さのポイントはまずそこにあると思うんですよ。見に来たお客さんが「じゃあ違う演目の方がいいな」って言いかねないところを、パフォーマーが違うというところから差異が浮かび上がってきたときに、なぜあえて同じものを重ねて上演するのかという力強い意義がこの試みに出てくる気がするんです。そこは企画意図としてわかりやすい見所だとは思うけれど、これからリハーサルを重ねていく中で何かその意図とは違う別の見所が出てくるのかもしれないよね? 今はまだ思考段階中だろうから想像できないけど。

その2「『よろこぶ身体』というもの」
「よろこぶ身体」というもの

石橋 今回の企画の一番大きな動機として、誰かのための振付ではなく、振付としてどこまで通じるのかということがあると思うんですが、それとは別に何か試してみたいということというか、裏テーマみたいなことってあるんですか?

岩渕 今回の作品だけというよりも、これからの自分にとってのダンス観の根っこになるもの、何が来てもまず出発点になるものというのが、「よろこぶ身体」というものです。それは創作活動におけるベースとしていきたいのですが、今回はそれがそもそもどういうものかということを特化させて、「よろこぶ身体」というものの解釈を自分がどれだけ持っているのか、ということを一回追求してみたいんです。

石橋 その「よろこぶ身体」の解釈の幅を作品の中で試してみたいと。「よろこぶ身体」というのは、身体の細胞が沸き立つということが「よろこぶ」ということですか? メンタルによろこばしいというわけではなくて、もっと身体が発信しているというか、身体が先行しているというか、感情は後でよく考えてみたらこうかな、ってくらいのことで、まず最初に身体が反応するということですよね。

岩渕 そうですね。

石橋 「よろこび」の種類にはいろいろあるわけで、そのバリエーションというか、グラデーションというか、それを30分の作品の中でいろいろな階調を出すということなのかな? それともMAXのところをひたすら求めるということ?

岩渕 今回のイメージとしてはどちらかというとMAXに近い状態を求めています。「よろこぶ身体」というものからいろいろな感情が見えてくるということもあるんだけど、今回の場合はちょっとそこは置いておいて、運動量が多いというわけでもなく、もっと運動的に身体が強く「よろこんで」いる状態をクローズアップしたいと思っています。その濃淡を作品の中で探っていこうという感覚です。

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左 : 岩渕貞太×清家悠圭「yawn」(c)大洞博靖 /  右 : 岩渕貞太「double」(c)仙波龍生

石橋 その濃淡というのは「よろこぶ」度合いの強弱を求めているのか、もしくは「よろこび」の種類の質を求めているのでしょうか。

岩渕 どちらかと言うと、強弱の方のイメージですね。

石橋 ということは質という点ではダンサーの肉体の質で違いが出てきてしまうので、振付の意図としては「よろこび」の強弱がメインになってくるんですね。

岩渕 強弱……、

石橋 濃淡という言葉も使っていたけど、強弱とは違うニュアンスで使っているの?

岩渕 ちょっと違う感じで使ってますね。

石橋 それも何だか面白いね。単に強いか弱いかということではなくて、密度や濃淡なんだなというところが拘っているポイントなんでしょうね。その「よろこぶ身体」というのが今後の創作活動において何よりも基本に欲しいのだということで、今回の公演についてはそれに特化したいと。「よろこぶ身体」の濃淡が振付の中で出てくれば、貞太君がやりたかったことが形にできたということになりますよね。その辺が観る側としてとても楽しみですし、注意して観させていただきたいと思います。

その3「カンパニー作品を作ってみたい」
カンパニー作品を作ってみたい

石橋 ところで最初に来年度に向けてのステップを踏んでしまいたいって言っていたけど?

岩渕 カンパニー作品を作ってみたいなと。その前に明確に答えが出るものではないのかもしれないけれど、「よろこぶ身体」というのを誰かに伝える前にソロをやることで自分にどれくらい伝わっているのか確認してみたいと思っています。まだ明確にどんな体制のカンパニーにしたいとかはないのですが、次に作りたい作品のイメージがあるんです。

石橋 もうすでにあるんだ(笑)。シンプルに言うとどんな作品ですか?

岩渕 男性だけの作品を作りたくて、男性だけの中で、あ、そうだキノコの話があるんですけど。

石橋 珍しいキノコ(舞踊団)ですか?

岩渕 ではなくて(笑)、普通のキノコです。大学生のときに読んだ本なんですが、ゲイの方が書いた本で、ある種類のキノコは性別らしきものが200種類以上あって、例えばその中で1番と9番では子どもが産まれるけれども、1番と2番では子どもができないらしいんです。たとえ話かもしれませんが性別というものは2つだと思われていますけど、男性だけの中でさっきも話した濃淡というか、グラデーションがあるのではないか、と。

石橋 ありますよね。真黒に近い人から薄墨に近い人までいろいろですよね。

岩渕 そういう濃淡みたいのが男性だけの中でできるのか、どうか、みたいな。ずっと前からイメージだけはあったんですけど、最近ちょっと作品にしてみてもいいのではないかと思っていたので。

石橋 うん、面白い!

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岩渕 それが人を集めてカンパニーのようになるきっかけになれば。

石橋 そのカンパニー作品を作るためには真黒なところから薄墨まで選ばなければいけないよね。それを演出によってとか振付によって、濃い人を薄くしてみたり、薄い人を濃くしてみたりと、もしダンサーの身体の濃淡が変われば、振付や演出の持っている力がすごいと思うんですけど、でもやっぱり肉体が持っている質に引っ張られることもある。その辺も含めて何人か浮かんでいますか?

岩渕 それがまだ浮かんでいなくて……、

石橋 イスラエルから一人呼びましょうか?(笑) 良さそうな素材がいますよね。(※下記参照

一同 (笑)

岩渕 何人かダンサーの知り合いの中でちょっとやってみたいという人はいますけど、まずその前に自分でワークショップをしたりして出会いの機会を作っていきたいと思っています。今までずっと僕は主にダンサーとして活動してきましたので。

石橋 コーディネートとかマネージメントの感覚も備えないといけませんよね。

岩渕 そうですね。ですのでそういった機会をちゃんと持ってから、出てもらうお願いをしてもいいのかなと思っています。そんなにダンサー人口は多いわけではないですから、限られてくるかもしれませんけど。

石橋 とてもやりたいことがクリアになっているので、もうあとは行動にしていくしかないですよね。カンパニーにしても今度の「タタタ」にしても。しかもそこで確認したいことというのがすでに自分の中にあるので、そこに本人すら予測していなかった発見がついてくるとなおいいし、こういうスカラシップという中でも意義がありますよね。

岩渕 そうですね。

石橋 公演のときにはポストパフォーマンストークのゲストとして呼んでもらっているので、作品そのものもだけど、今日の話の答えみたいなものもすごく楽しみにしています。

岩渕 はい、頑張ります。

急な坂国際交流レジデンス事業Vol.1 アルカディ・ザイデス『DA AT』
2007年、岩渕・石橋が参加したレジデンス企画。アルカディ・ザイデス(イスラエル)を招聘し、約5週間のワークショップやフィールドワークのもと成果発表を行い、岩渕はダンサーとして、石橋は滞在アーティストの創造活動における知的パートナーとなる人材「ドラマトゥルク」として参加。成果作品「DAAT」では、「アダムとイブ」をテーマに横浜の街頭風景や街頭音を用いて、文化や歴史の変遷を取り込んだダンス公演となりました。
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