2018年秋から急な坂スタジオのHPにて、綾門優季さんによる連載「余計なお世話です」を掲載してきました。公演ごとの舞台批評だけではなく、舞台芸術全体の課題などを交えながら、たくさんの方からのご協力の元、連載を続けてまいりました。
この数ヶ月、社会全体にとっても、舞台業界にとっても、厳しい状況が続いています。この状況の中で、今語られるべきことをどのような形で掲載するのが良いか話し合い、綾門さんと加藤(急な坂スタジオディレクター)の手紙でのやりとりを掲載することにしました。
二人のお手紙を、こっそり一緒にのぞいてみましょう。
※『往復書簡 4通目(綾門→加藤)』を更新しました。
「余計なお世話です」番外編〜綾門と加藤の往復書簡〜
★往復書簡 3通目(加藤→綾門)
綾門さま
こんにちは。加藤です。
緊急事態宣言が5月31日まで延長されるようです。どんなこともそうですが「終わり」を決めることは、何かを始めるよりずっと難しいのかもしれません。
さて理想のリーダー像のお返事、ありがとうございます。「他者と違うことを恐れない」ということは同時に「他者を敬うことが出来る」ってことだと思います。相手の意見や言葉に慎重に耳を傾けるからこそ、相手との違いを見出せるからです。「あの人は変わっている」と誤解されがちですが…
私にとっては、ドイツのメルケル首相やニュージランドのアーダーン首相が理想のリーダーとして、とてもしっくりきます。原因と結果を具体的に説明してくれる冷静さと、「任せろ、大丈夫。」という安心感。意識的かどうかに関わらず、相手を追い詰めて根性論で「がんばろう!」というリーダーが一番信用なりません。立場がどうあれ、自分の言葉に責任を持つのは当たり前だけど、すごく難しいことであるのも事実ですね。このことはtwitterでも言えるんじゃないでしょうか。
ツイッタランド、ちょっと覗いてみました。まさに地獄のようですね。気持ちに余裕が無いと攻撃的になるんでしょう。こういった人たちは、twitter弁慶なだけかもしれません。今回の質問、綾門さんはきっと何度も「twitterやめればいいじゃん」と言われてきたと思います。でもやめていないのには、きっとそれなりの理由もあるのでしょう。だから「今すぐやめろ」以外のお返事を考えています。
相談室plusを経験した綾門さんは良くご存知だと思いますが、急な坂は「公演というゴール」を設定しないようにしています。それは創造活動とは特別な一瞬ではなく、生活とともに続いてゆくものだと信じているからです。そして上演・公演の際に観客と出逢い、その生活が交差します。たまに訪れる小さな奇跡のような時間です。その経験をしたことが無い人には、「ふふふ。羨ましいだろう。」と思いましょう。
どうせランドに行くなら、ディズニーランドに行きましょう。私は大好きなんですが、年に1、2回行けるかどうか。でもそのくらいの頻度だからこそ、また行きたくなるし恋しくなる。今は閉園中なのでなおさらです。
まずは頻度を減らすことから始めましょう。いきなりやめると反動も大きいので。署名やクラウドファンディングはそれぞれウェブサイトを持っています。スマホでtwitterアプリを開くのではなく、検索しましょう。そしてtwitterを見たくなったらこの言葉を思い出してください。
「あれはただのつぶやきだ。」
そうです。見ず知らずの誰かのつぶやきです。誰かに聞かせるためでなく、なんとなく口からこぼれてしまったのです。綾門さんへのメッセージではありません。だからちょっと距離を置いて「あの人どうしてるかな?」とふと思った時に覗いてみてください。これでダメなら、やっぱり「今すぐやめろ」。
実はこの機会にボードゲームを始めてみました。見た目で選んだのですが、なかなか面白いです。
アズール
(様々なことが落ち着いたら、急な坂でスタッフと一緒にやりましょう。)
今回は綾門さんがこの機会に新しく始めたこと、もしくは始めてみたいことを教えてください。お返事お待ちしています。
5月4日 加藤弓奈
★往復書簡 4通目(綾門→加藤)
加藤さま
お世話になっております、綾門です。
アズール、早くやりたいです。調べてみましたが、これは実際に会って盛り上がりたくなるゲームのようですね。
オンラインの様々なツールがある時代に生まれてきて良かったですが(スペイン風邪の頃に自宅にこもり続けるのはかなりしんどかっただろうなあ…)Zoomで埋まらないコミュニケーションのことをどうしても考えてしまいます。
新しいことといっても、ゲームばっかりやっている今日この頃なのですが、特にお勧めの3つに絞って、ご紹介したいと思います。
1.チェス
将棋もオセロも何度かやったことがあったので、コマの動かし方さえよく知らないチェスを選択しました。新しいことを始めたい気持ちがとっ散らかって、4月にかけて色々なものに手を出しましたが、今日までずっと続いているのはチェスです。なかなか奥が深いです(キャスリングってどのタイミングでやるのがいいんだろう?)将棋と違って、コマが復活できず、決着つくのが早い感じがします。性格的にすぐに攻め込んで返り討ちにあいやすく、まだ全然弱いです。よろしければ、オンライン対戦しませんか?
2.モニュメントバレー
アズールが好きなら、と思ってチョイスしました。グラフィックがとても美しいスマホでやれるパズルゲームで、クオリティーは高いですが安価です。ストーリーを進めていくと登場する、意味深な言葉も好みでした。『モニュメントバレー2』も良かったですが、ストーリーがわかりやすくなっていて、1の謎めいた世界観のほうが魅かれるものがありました。難しすぎて、途中、攻略サイトをみてしまったのが地味に悔しかったです。
3.ポケットモンスター ウルトラサン
ペットショップで仔猫や仔犬がよく売れるというニュースが国内海外問わずありました。家にずっといると、何かを育てたくなる気持ちが強くなるのはわかる一方で、しかし、その気持ちは一時的なものかもしれないですし、その人たちはペットの最期まで看取る覚悟があるのだろうか? とつい思ってしまいます。私は間を取って(?)ポケモンを育てています。先日、デンヂムシ(電池みたいな虫)がクワガノン(クワガタみたいな虫)に進化しました。ピカチュウは可愛さを優先して、あえてライチュウに進化させるのを見送っています。ポケモンはポケモンで一部の動物愛護団体から苦情が来ているのですが、これは流石に無理筋というか、そんなこと言ったら人を撃つゲームはいいのかよみたいな疑念も浮かびますし、少なくともゲームの中の生物と現実の中の生物を等価で考えられないようなところが私にはあります。戯曲を書いている時、登場人物にどこまでも残酷になれるのも似た感覚があります。
ところで、このゲームの中には「げきだんいんのヒバリ」というキャラクターが登場するのですが、これには演劇に関係するTwitterの一連の炎上のことを思い出しつつ、ネガティブな意味で考えさせられました。「げきだんいんのヒバリ」は、各地に登場する、俳優の夢を追い、演技を勉強するために、様々な役を演じる姿を、出会ったばかりの他人である主人公に観て欲しいと度々迫ってくるポケモントレーナーで、正直鬱陶しいです。これは様々なフィクションで出てくる「げきだんいん」にも言えることなのですが、どうしても偏見を感じざるを得ません。
1.夢を追っているわけではなく、多くの俳優は仕事を淡々とこなして日々の生活を送っている、何も特別なことはない、ひとりの人間である
2.劇団員は「俳優のタマゴ」だけではない
上記は演劇をやっている方にとっては極めて当たり前のことですが、演劇に接していない方にとっては当たり前のことではありません。一部の方には、目立つひとたち(目立たざるを得ない役割のひとたち)しか見えていないのかもしれません。わざわざ言うことでもないですが「演劇人」は俳優と劇作家と演出家だけではないわけです。その人たちは、演劇に関わる、ごく一部の人たちに過ぎません。ただ仕事を奪われ、言葉がなかなか届いていない「演劇人」たちのことを想い、落胆してしまいます。例えば、今後の劇場再開に向けて、異様に気を配らなければならない舞台監督のインタビューや制作者のインタビューを、今、切に読みたいです。
というわけで、私からの質問(というよりお願い)ですが、こちらについて、お読みになりましたでしょうか。
全文通読して天を仰ぎましたが、これを遵守して劇場再開するというのは、ハードルがかなり高いように思われました。公演として破綻するものもあるでしょう。急な坂スタジオをはじめ、数々の劇場や施設の職員を経験してきた加藤さんから、こちらのガイドラインについての見解を伺いたいです。
よろしくお願いいたします。
5月17日(日)綾門優季
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