今年の夏に行った「坂あがり相談室plus」2017年度版!では、犬飼勝哉さん、立蔵葉子さん、柳生二千翔さんがそれぞれ思い思いに20日間を急な坂スタジオで過ごし、犬飼さんは稽古場日誌、立蔵さんと柳生さんは稽古場で発表と、それぞれの形で、稽古場での積み重ねをアウトプットしました。
少し時間を置いて、スタジオで過ごしたそれぞれの20日間を振り返っていただきました。急な坂スタジオディレクター加藤のコメントと合わせてご紹介します。
■立蔵葉子(俳優・梨茄子主宰)の振り返り
終了してから2ヶ月近くたって振り返ってみると、相談室plusでの20日間は、とても楽しく快適だったけれど、厳しい場所でもあったのかもしれない、と思います。
場所は用意されていて、欲しい物は言えばだいたい手に入り、通りすがる演出家やダンサーや制作者と世間話も相談もしょーもない話もできる。20日間、ただただ創作につながることだけをしていられました。
一方で、創作だけしていられるということは、創作する人として見られ続けるということでもありました。これまでも、幸せなことに、作品のことだけ考えていればいいという環境においてもらったことはありました。でもそれはあくまで出演者としてであって、作品の最終責任は私ではない誰かにありました。もし目も当てられないひっどい作品になったとしても、メンバーが喧嘩別れしてなにも作れなくても、私は出てただけだから~と逃げることもできました。でもここではそれは無理でした。いくらでも失敗していい、でもその失敗は私のもの。誰かの作品の参加者ではなく、自分が主体的に作品をつくり最終的な責任と評価を受ける存在であること、そしてそのことを意識しつづける場は、もしかしたら初めてだったかもしれません。その重さは、思いのほか心地よいものでした。
発表会も終え、やりたいことやりつくして何も作りたくなくなっちゃうんじゃないかと思っていたのですが、作りたいものはすぐやってきて、ちょっとだけ進んでいます。自分にもあの厳しさに耐えうるものがあるんだろうと都合よく思い込んで、坂の上でないところでも、作品をつくる人としていたい、と思っています。
■犬飼勝哉(劇作家・演出家)の振り返り
20日間を通して和室、スタジオ1、そして最後のほうはスタジオ2とスペースをお借りしました。私自身は劇作と演出を普段している者なので自由に空間を使える機会をいただき、身体を動かしたり踊ったりもせずどうしたものか…と少し困惑しつつも脚本を書くにしてもなんだか贅沢な場所の使い方のような気もして(期間の前半のうちは途中まで出来ていた脚本を仕上げるのに時間をつかった)、それでも後半のほうで俳優の方にスタジオまで来てもらい、ぽつぽつと出来たての脚本を立ち上げる作業を行いました。
稽古場での内容を日誌として記録しました。せっかくこういう企画でお借りできるのでなにかかたちになるものを残そうというのがおもに始めた動機でしたが、人間というのはその場その場で対面していた状況なり気持ちをとかく忘れやすいもので、今後、振り返る際の(自分にとっての)貴重な資料となりそうですし、単純に言葉にするだけで考えがまとまりました。
急な坂スタジオにはなんというか独特な(もちろんいい意味での)空気のようなものがぜんたいに流れていて、その中で20日間を過ごせたというのが一番大きな事のように思えました。その空気というか雰囲気を自分の中にインストールさせてもらった気分でおります(そのうち立ち消えにならないようキープしていきます)。北海道から届いたジンギスカンと小豆島そうめんごちそうさまでした!
■柳生二千翔(劇作家・演出家)の振り返り
相談室plusでの20日間は、私の表現する/できるものはどんなものか、根元の部分を再考する時間でした。幼稚な感想かもしれませんが、とても幸せな時間でした。
といっても、特別な出来事ばかりではありません。毎日昼過ぎに急な坂スタジオを訪れ、時々野毛周辺の街を散歩し、日誌のように戯曲を書く。このルーティンが基本です。
しかしこの中で私は、初めて「文章を書く行為」自体が楽しいと感じていました。
製作している期間は、先に上演の予定があり、稽古も並行していることがほとんどなので、何としても形にしないといけない辛さ、のようなものが先立ってしまいます。(もちろんそういう状況だからこそ作れるとも思うのですが、)立ち止まって自分の現在地を冷静に見つめ直す、という機会を中々作ることができません。
この時は「成果発表は必ずしも行う必要はない」という相談室plusのルールもあり、自分が何を面白いと思うのか、というアンテナの周波数を確認するところから始めることができました。うまくいかないことも多々あり、文字通り修行の日々でしたが、とても健全なメンタルのまま最終日まで送ることが出来ました。これは私にとっては奇跡に近いです。(大げさな表現ですが、本当です!)
そして結果的に私は、ここで書いたテキストを元に”演劇の展示作品”を発表しました。
実際の街(野毛)を媒体に、そこに私の考えたフィクションを流し込む。見慣れた街並みが、今ままでとはほんの少し違って見える。単純ではありますが、私がやりたいと思っている根底の部分を実験できたと思います。来年は、ここで得た視点をさらに発展する機会を作りたいと思っています。
滞在中のいつかに、ディレクターの弓奈さんとお喋りしていました。上記の「書くって楽しいですね!」というようなことをお話ししたところ、「本当に辛くなった時に、そう思えた経験が後々自分を支えてくれるよ。良かったね。」と言われました。その時は「そういうものだろうか」とふんわりしていましたが、早速現在かなり辛い時期(公演怒涛の準備中)の中で、確かに支えになっている部分が多いので、ああ、やっぱり相談室plusの機会を頂けて良かったなと思うのでした。
ディレクターの加藤弓奈さんと、スタッフの持田喜恵さん、展示の受付をしていただいた職員の方々、設営にあたりお世話になった映像の須藤崇規さん、音響の牛川紀政さんに改めて感謝いたします。
たくさんの人との縁もできました。もっと先まで走っていけるよう、頑張ります。
■急な坂スタジオ・ディレクターより
高校3年生の頃、【進路相談室】に入り浸っていました。進学校ではない、のんびりした女子校だったので、授業外で手厚いサポートをしてくれました。日々、志望校にみあった課題や問題集の添削など、予備校がわりに受験勉強に取り組んでいました。しかしながら、そこで得た一番大きなことは、先生方とあらゆる議題に対して、考え、話す時間でした。弁の立つベテラン教師を相手に自分の意見を述べる、言い返されたら何度でも考え続ける、という経験そのものが大切な財産になりました。
今回の相談室plusでは、そんな日々のことを思い出しました。文字通り【相談室】だったような気がしています。誰かに相談するときは、きっと答えは自分の中で決まっていて、【相談する】ということ自体が重要なのではないでしょうか?
柳生さん、立蔵さん、犬飼さんは、それぞれ自分の中にある創作活動を続けていくために必要な何かを、再確認・再認識しているように見えました。表現内容もアウトプットの仕方も3人バラバラの個性溢れるものでしたが、
ということを、本当に丁寧に考え続けた20日間であったことは共通しています。期間限定の相談室が、それぞれの今後にとって、小さな支えと大きな自信に繋がったことを願っています。
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「坂あがり相談室plus」は劇場での公演をゴールとするのではなく、【いつか劇場で公演するために必要なことを創造環境で試行錯誤してみる】ということをもっと支援したいと思い始めました。
20日間、稽古場で試行錯誤したことを、どうしたら公演にできるか?会場は?スタッフは?ということを考えることも、大事なポイントです。
今後の三人の活動も、引き続き一緒に見守っていただければ幸いでございます。