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『わたしたちは生きて、塵』参加アーティスト特別対談④酒井幸菜×木村菜穂子(衣装)

Dust as we are, still alive
酒井幸菜新作ダンス公演『わたしたちは生きて、塵』参加アーティスト特別対談

急な坂スタジオ・サポートアーティストの酒井幸菜(振付家・ダンサー)。2年ぶりの新作となる『わたしたちは生きて、塵』では、多様なジャンルの若手アーティストと作品づくりに取り組んでいます。その創作過程の裏側に迫るべく、今回はスタッフの皆さんとの特別対談をお届けします。

今回ご紹介するのは、衣装を担当してくださる木村菜穂子さん。学生時代からすれちがってはいたのだけれど、実際に衣装をお願いしたのは、『ダマンガス!!』から。
独特な興味から衣装製作に携わるようになった木村さんと、打ち合わせから実際の創作過程まで、酒井と一緒に語り倒します!

目次
参加者プロフィール
参加者プロフィール
Naoko Kimura
撮影:相川健一

木村菜穂子

2006年、まつもと市民芸術館で上演された舞台『水の話』が衣裳家としての始まり。以後舞台や短編映画、オペラやダンス、広告衣裳などの衣裳デザイン・制作を担当する。『ダマンガス!!!』や『難聴のパール』、バックブランド〈マザーハウス〉の『hanabira series』など、酒井幸菜の纏う衣裳も手掛ける。
「纏う人」を想い、デザイン・制作することが多く、空想から紡ぎ出した言葉でイメージを描き、つくったものをダンサーや役者に着てもらい、つくり、着てもらい、つくり、着てもらう・・・という過程を繰り返し、立体的に作り上げていく。

Yukina Sakai

酒井幸菜(振付家・ダンサー)

1985年神奈川県茅ケ崎市生まれ。5歳よりモダンダンスを学び、学生時代から創作活動を始める。東京芸術大学音楽環境創造科卒業。
しなやかな身体を最大限に活かした丁寧で繊細な表現が、多くの振付家から評価を受け、様々な作品に出演している。タイの漫画家ウィスット・ポンミニットとの異色の舞台『ダマンガス!!』を始め、音楽家や建築家、美術家など、他ジャンルのアーティストとの共同制作を通し、演出家として緻密な空間構成をする才能を開花させた。自身の創作活動は、2007年よりコンスタントに発表し続けており、美術館や小劇場、大理石造りのホールなど、様々な会場を見事に自分自身の空間へと変化させてきた。

また、演劇作品や広告、ミュージックビデオへの振付・出演、バックブランド<マザーハウス>のイメージキャラクター、EMI ROCKS 2012で披露され大きな話題となった清 竜人のステージの演出・振付を手掛けるなど、幅広く活動を展開している。
2011年、第60回神奈川県文化賞未来賞を受賞。

sakaiyukina official website http://www.sakaiyukina.net/
Topic-1 『衣装を始めたのは…』
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酒井幸菜×ウィスット・ポンミニット『ダマンガス!!』 川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(川崎/2009年2月) 撮影:鈴木竜一朗
『衣装を始めたのは…』

4月14日 せっかくの機会なので、衣装を始めたきっかけから・・・

【Q】急な坂スタッフ  酒井さんから、木村さんが服飾科のご出身でなく、『美術解剖学』からスタートされたと聞いたのですが?

木村菜穂子(以下、木村)  もともと皮膚感覚というのに興味があって衣裳とか服をつくりはじめて、そこをちょっとつきつめたいなと思って美術解剖学※注1という医学的な研究とか授業のあるところに進んだんです。

【Q】  では、大学で木村さんと酒井は、出会ったんですね?

酒井幸菜(以下、酒井) 私も美術解剖学にはちょこっと興味があって布施英利先生の生物学とかはとってましたが、木村さんと知り合ったのは卒業してからですね。

木村  私が舞台衣裳に関わるようになったきっかけは、演出家の串田和美さんが、藝大に週に一回くらい、授業にお見えになっている時期がありまして、私は興味があることにはわりとがつがつ行っちゃうタイプなんで、親しくさせていただいて、いろんな舞台を見せていただいたりしていました。その時に、串田さんが各地でワークショップをやる機会があったんです。

【Q】 どのようなワークショップだったんですか?

木村  役者さんのワークショップなんですけど、『それに行きたい』って言ったら、『じゃあ、いいよ』って言っていただいて、役者さんにまざって一人だけぽつんと3週間くらい、松本や北海道の富良野や札幌についていきました。

【Q】 その時、衣装はつくったんですか?

木村  そこで出会った役者さんの中に、中嶋しゅうさんという役者さんがいるんですけど、その方がたまにご自身で演出をされることがあって、それの衣裳をやるようになったんです。学生の時に、串田さんが芸術監督をしているまつもと市民芸術館で、中嶋さんが地元の方と舞台をつくることになって、その際に衣裳でよんでいただいて、2カ月くらい松本に滞在しながら衣裳を制作しました。

※注1 美術解剖学:東京藝術大学 大学院美術研究科 芸術学専攻 美術解剖学研究室

Topic-2 つくり方。『ダマンガス!!』の場合
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Neandertal ZINE『Dancer in the Light』
つくり方。『ダマンガス!!』の場合

【Q】  実際に衣装をつくる時にどのような進め方をされるんですか?デザイン画とか見せてもらえたりしますか??

木村  私、今まで服飾の大学とかで勉強していたわけではなくって、ほんとに自分の興味から始めたんですね。たとえば、着たい服がないから自分でつくってみたりとか。あと、皮膚感覚で、ちょっとごわごわしたものとかを使うと、身体の境界がより分かりやすいんじゃないかと思って、紙で服を作ったりしていて。あんまりスケッチは描かないんです。言葉で書くことが多くて、メモとか・・・

【Q】 デザイン画じゃなくて、メモ!面白いですね。

木村  たとえばいろいろ聞いたことを、メモして、言葉をどんどん連想させて書いていってそれを見ながら、実際に縫ったり・切ったりとかして、落とし込んでいくっていうやり方です。

酒井  あんまスケッチでのやりとりってなかったですよね。

木村  うんほとんど。

【Q】 木村さんが、酒井の衣装を作る時の二人でのやりとりはどんな感じなんですか?

木村 なんか、幸菜ちゃんから言葉をもらって、『こういうイメージがいい・こういうイメージをもっているんです』っていう言葉を聞いて、その言葉を核にそこからもうちょっと抽出したりとか拡げていったりとかして一回ラフなこんなのどうです?ってどーんとだしちゃう。

酒井  ものをつくってもらっちゃって、もうちょっと長くとか、素材をもうちょっとこういう感じに変えたいとか、そういうやりとりですよね、いつも。

木村  ものを介してそこで何か言ってもらって、それをできるだけ形におこしていけたらって。動き方にしても、ここがもうちょっと動く方がいいとかここは動かない方がいいとかいうのを反映させていきたいなと思って。

酒井  私もうまく言葉で説明できないけど、それを引き取ってくださいますね。

【Q】 「ダマンガス!!」の時からそんな感じですか?

酒井  ダマンガスのときは、【赤いワンピースを着る】っていうのは自分の中で決まっていて、それをお伝えして、飛んだり跳ねたりするときの落ち感があるほうがいいっていうようなことだけ伝えました。あとはタイの方とのコラボレーションだったから、タイ料理の持っている【甘い・酸っぱい・辛い】って、いろんなものが同時にやってくる感じ、それは同時に、アジアのまちのこととかも含めていて。ほんとにいろんな素材とか柄がはいった…あのときは、タスキみたいなのがあったっけ。

木村  うんあったね。シンプルなワンピースの上に、タスキのようなものをつけて。

酒井  一人しか出演者がいないから印象をいろいろ変えたいというのもあって、リバーシブルにしてほしいというのがあって。リバーシブルにしてくださったんでしたっけ?

【ここで、過去の作品を実物を展示しましょうか・・・という話で盛り上がり、公演期間中ロビーにてtop写真作品の一部を展示したいます!ぜひぜひ、お近くでごらんください!】

Topic-3 今回の作品は??
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『In her,F major』 LIFT(東京/2010年10月) 撮影:相川健一
今回の作品は??

【Q】  本当に言葉から発想してどんどん広げていく感じなんですね。

酒井 ディテールではなくて全体のイメージはある程度こういう感じというのをお伝えして、たとえば出演者ごとに、この人はワンピースがいいとか、パンツがいいとか、お伝えすることもあるんだけど、でも割とお任せですね(笑)でてきたものを見て、『わっ』となる、『すごい』ってなる。

【Q】 今回の作品はどうですか?
以下、酒井の言葉の抜粋です。本作について熱く語られた中から、キーワードを抽出しました。

シャツの展開/パターンの組み合わせ/ニ枚のシャツで一枚のシャツ/6人の女性/姉妹ってわけでもないし友達ってわけでもない/何か運命共同体みたいな感じ/人の摩擦/自分の中のいろんな面/しがらみ/パターンがあべこべ/でも形をなしていてそれをまとっている/洋服の中で一番パターンが多い/すごく基本のもの/分解して再構築する/なにをしていいのか、何をしたらいいのか/今この瞬間を全うする/この瞬間を惜しみなく生きる/生の身体を差し出す表現媒体/身体を惜しみなく差し出す/恥ずかしいくらいストレート/ぶつかっていって・粒子になって・蒸発していく、くらい全うする/一人ではなくて二人以上/すごく慈しむこと・いじわるなこと/いいこともわるいことも一人ではなく二人以上いればおこる/

木村  具体的には、ワンピースという感じ?上と下でわかれてるイメージ?

酒井 人によってちょっと違っていいかなって思っていて。どちらかというとワンピース的なイメージ。『ふわっ』ていうよりも、シャツワンピースで下はショートパンツをはくとか。シャツの前後が逆になっちゃってるとか。手がすごく長いとか。いくつかバリエーションを。素材もいくつか。綿とか、ち ょっと化学繊維っぽい変わった素材だったり。
(以下、酒井の熱い想いからキーワードを抽出!)

わたしたちは生きて、塵/ダスト感/ゴミっぽさ/きれいなものだけではない/ちょっと違和感のある/異素材が組み合わさっている/雑多感/紺のグラデーション/白にもいろんな白がある/光の陰影とか動き/いつも表情を違って表わす/シャツをはおってるみたいなラフ感/片腕だけ通してる/ニュートラル/照明とダンサーの身体とまとった衣裳/身体と照明そして音楽/空間に色気があるわけじゃない/

木村 足元は?

酒井  はだしですね。床面もそのまま黒です。リノとかもしく予定はなくて。やっぱり膝から下は出てた方がよくて。腕も片方は長くても、片方は肌が出ているような感じで。どうしても照明が当たった時に腕の陰影がみえた方がきれいなので、そこは見せたいなと思っています。
(以下、作品への熱い想いのキーワード!!)

けっこう動く/立っていて美しいってだけではなくて本当に動きを/過酷な振付/重くならない方がいい/ごわごわとか違和感とか摩擦とかは全然あり/軽めな素材でふわっとしたものがどこか一ヵ所ある/散り散りになっても踊り切ってやる私たち!/寄り添って引き立てるではなく/こっちから寄り添うのではなく戦いに行く/戦って戦って上に行く/生命力/フィットしちゃうよりもしがらみをまとっている/着心地が悪い/何か違和感がある/マントとか、いろんな素材とか柄/情報過多/その物量をおもしろがる/

酒井 私は木村さんとやるときは違和感みたいなものが常についている方がいいなって思っていて。わーっというとこんな感じですね。
木村 いつもだいたいこういう話をして、じゃあ一回目の衣裳案をんかもっていきますねっていう。自由にやらせてもらってて、だからすごい楽しいんですよ、幸菜ちゃんとやるときは。

酒井  たぶん他の人にこういうことを言うと、もうちょっとはっきりって言われちゃうと思うんだけど、木村さんには、ばばばばばーって。わわわわって渡して、

木村 わわわわって返して。

酒井  実際にものを見て話して、だからわりと生産的といえば生産的ですね。それを何回もつくり直したりすることがあって、無駄な作業もあるのかもしれないけど、とか、負担をかけちゃうこともあるとは思うんだけど、手でこねて作っていく感は木村さんとやっているとすごくあるし、最初の時点でどんなものが出てくるんだろうっていう期待があるから、渡せちゃうんですよね。

Topic-4 巨人の服
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『難聴のパール』ヨコハマ創造都市センター1Fホール(横浜/2010年6月) 撮影:飯田研紀
巨人の服

5月10日急な坂スタジオ、酒井からの言葉を受けて、木村さんがサンプルを1着持ってきてくださいました。

酒井 巨人の服だ。

木村  これ一応男性のシャツの3倍の大きさの服の一部が元になっていて、私とあなたっていう二倍じゃなくてもうひとり外側にいるという意味もこめて二倍じゃなくて三倍に、みんなで一人のひとのちょっとずつを分け合っているのか、6人の共同体でひとつになるのかとかいろんな解釈があると思うけど、そういうのをコンセプトに今回はつくってみました。このワンピースはシンプルに、幸菜ちゃんをイメージして、大人っぽさみたいな、きれいなものを。

酒井 (笑)

木村  だから、デコラティブなシャツがついているものではなくて、でもシャツの要素があるようにして。

酒井 なるほど。

木村  着方がいろいろできるから、基本的には上があんまり動かない感じで下が揺れる、幸菜ちゃんが言っていたどこかがフィックスしていて、どこかがふわふわ動いてほしいっていうのを、これは上がフィックスして下が動く。自分から離せない、かかえこんじゃうっていう。みんなで奪い合ったのか、わけあったのかわからないけど大きな服の一部を自分で纏ってしまうひとたち。みんなが着る短パンはシンプルで子どもっぽさがのこるような丈でこれぐらいはどうかなっていうサンプルでつくってみました。

酒井 いろんな着方ができるね。

木村  日によって着方が変わるとか

酒井 それすごいね!日によって5回全部着方が違うとか。

木村  いま、パーツで言うと幸菜ちゃんは右袖で・・・
(以下、木村さんの熱い想いからキーワードを!!)

左袖/一番シャツ感がわかる男性的なボタンがついている右側/ぱっと見シャツ/シャツワンピースっていう感じのする右というか右身ごろ/左身ごろと背中と襟/現実逃避というか直視できない、パワフルなんだけど、ほんとは前を見ているようで自分を一番直視できていない/背中を、背負っているものを本当は振りほどきたくてあんなに激しく動いている/大きな背負っているのか、背中を追いかけているのか/本当は一番何かが足りない/左側のポケットがある心臓側の、ひとには見せない・独り占めしたい/誰かに見せたりしないというかたくなな感じ/

(そして、作業は具体的に・・・)

木村 色味としてはこれぐらいで大丈夫?

酒井 うん、あんまり青という感じではなくて、これぐらいで。

木村 これぐらいがベース?

酒井  一番明るいくらい。

Topic-5 今後、一緒にやりたいことは?
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 今後、一緒にやりたいことは?

5月26日急な坂スタジオ 衣装の完成も目前。次の公演で試したいイメージもムクムクと・・・

【Q】 最初に持ってきてくださったときに、ガリバーのお洋服が分解されるみたいなイメージでしたが、そのあと二人で話してみたりとか、実際踊っているところを見てどんなイメージを持ちましたか?

木村 初めてお話した時は、もうちょっともろい部分があるのかなと思っていたのですが、私が稽古で見ている部分が激しいところがメインだからっていうのはあるんだけど、力強く生きて行くんだっていう力強さのイメージが大きくなったというのがあります。

酒井  全体では結構もろいというか意地悪な感じのシーンもかなりキーになってます。

【Q】 私とあなただけじゃなくって、もうひとつ広がるっていう発想がすごく美しいなと思いました。その辺の感覚って酒井の作品に受ける物ですか?

木村  やっぱり一人じゃないし、かといって二人でもなくて、それを見せたいのかはわからないけれど、もうひとつ外側の世界を感じるなって思って。『ダマンガス!!』でタムくんとやった時も舞台上は二人だけど、たとえば竜くん(写真家・鈴木竜一朗さん)が入ってきたりだとか、転換するためにスタッフが入ってきたりとか、やはりもうひとつ外を意識しているんだなっていうのがあったから、二倍だけの私とあなたの世界っていうのではなくて、もうひとつある三倍。

酒井 セカイ系じゃないっていうことかな(一同笑い)

木村  もうちょっとひろがって、みんなでっていうところはあります。

【Q】 お二人のやり取りを見ていると、とても似ていますね。言葉の表現だけでお互いが何を作りたいのかっていうのがなんとなく解り合えるっていうのは、もしかしたら何か人だったり物だったりに対しての目線の位置が似ているのかなっていう気がしますね。

酒井 やっぱり木村さんにはすごく任せられるなって、本当に。もちろん細かくワンピースにしたいとかAラインにしたいとか、膝は膝頭なのか中腹なのか下まで隠れる方がいいのかっていうのは、その時々に、色はこういう色って指定することもあるけれど、あるポイントに対するこだわりがあるだけであとはもう「お任せします!」って言って渡しちゃっても、コンセプトも含め返してくれるっていうのがあって。「幸菜ちゃんがこう言っていたところは、こういうことなのかな?」って言ってこういう風にしたよっていうように。

木村 勝手にね(笑)

酒井 自分でも言ったことを忘れていたようなことを拾ってくれて、それを立体に落とし込んでくれたりするんですよね。着ると全然テンションも違うし、動き方も「布こうやってくるなら、ここの身体の使い方はこっちだよな」とか、そういう調整というかチューニングはしていくんですね。『ダマンガス!!』の時のタスキや、アートディレクターの石井原さんに作っていただいたZINEのピンクのやつもすっごい大きなマントで、衣装によって動きを出す面白さを木村さんの衣装を着ることによって発見があって、こーんなものを、頼んでもないのに作ってきてくださって、「これをどうする?」みたいな。それを考えるのがすごく面白くって。かなりいろんな仕掛けがあって。「ここにこんなものがあった!」とか。素材も飛んでもないものを持ってくるので。布じゃなくて和紙だったり、水着の素材とか、ビニールとか…。本当に面白いんですね。「着て動きの発見をする」っていう衣装。

【Q】 お互いに影響を与えあいながら作品が完成に向かっていくんですね。

酒井  木村さんがファッションデザイナーではないっていうところがやっぱり面白いところ。負荷なんだけれど装置じゃないっていう、そんなような気がします。ポイントはたぶんスキンで、タイツじゃないけれど現代舞踊のように自分の肌にできるだけ近い、動いたときにブレのないようなものを追求する衣裳もあって、それに対して、木村さんのポイントは違和感で、触っておかしい、何かが違うっていう、フィットするんだけどさせないっていうところですね。自分の身体の延長としての、動きにちゃんと含まれるというか、動きそのものになり得る、身体と同化できる衣裳をつくってくださる。違和感なんだけど同化するっていう。

【Q】 『違和感』っていうのは酒井が言い続けているキーワードで、生きてく上で起こるいろんな摩擦とか、おかしなこととか、ちょっとやだなってこと。その違和感をどう自分の中に取り入れるかとか、どう向き合うかっていうのを作品にしていて、木村さんとの作業は、そこも本当に信頼できるところなんでしょうね。

酒井  今回『摩擦』っていうキーワードがあったんですが、その辺はどういう風にとらえたのかって言葉にするとどうですか?もう十分感じてはいるんですけど、衣装を着て。

木村 摩擦っていう単語よりは、摩擦から生まれる何かっていうところをちょっと考えて。

酒井:  そうそう、そこ!そこの想像力が本当に素晴らしいの。私が渡したことは単語までなんだけど、そこから先を押し広げてくださる。

木村 でもやっぱり幸菜ちゃんがいろんなことをしゃべってくれるから、しかも固まったことじゃなくて思ったこととか考えたことを話してくれるからそれを私もメモしたりとかして。その言葉を自分でも拡げるし、それを置いてメモをみた時に浮かび上がってくるキーワードみたいなものもあったりするから、それを勝手につなげたりとか、自分でもちゃんとは書いてなくてばらばらに単語を書いたりするから新しい単語も浮かんだりとか。だから幸菜ちゃんが言ったようなことの中に要素はあるはずで、単語だけじゃなくて、それをつなげられるような要素は他にいっぱいあって。

酒井  それをピックアップするのが自分じゃなくて抽出してくれる人がいる心強さ。

木村 私だけが拡げすぎちゃうと離れて行っちゃうから、基本的に幸菜ちゃんが言った言葉に戻るように、拡げては、幸菜ちゃんの言葉に戻るように。形が生まれた時に幸菜ちゃんの言葉に戻るようにというのは、なるべく心がけるようにはしています。

酒井  二人ともいい意味であっけらかんとして、真面目なんだけど、いい加減な部分もあって。っていうバランスがたぶんお互いに。その大雑把感というかざっくり感が気持ちいいっていうか。私そんなに詰められないから、「あと1ミリどうしますか?」みたいなこと言われても、「いや、わからないよ…」とか思っちゃうんだけど、そこで伸びるか縮むかしなくてもいい相手。「いいよね、このくらいで」みたいな。その1ミリを詰めるってことももちろん大事っていうことも良く分かるんだけれど、もうちょっと木村さんとやる時はもうちょっと広く見えた方がいいかなって思います。

木村 私もそれが有り難い!(一同笑い)

酒井  5ミリくらい上げないと膝の位置がとかっていうのは、スチールだとそれくらい厳密になるけれど。撮る時にこのしわ伸ばすとか後ろつまんじゃえるから、こんな私でもかなり神経質になることもあります。

木村 一回の固定だったらいいんだけれど、ダンスとか踊っているとその5ミリは動くし。着た時の自分の食べた物によってもお腹の位置も変わるし、気分によって肩の位置も変わるし、でも、そこを本当にこだわりたいんだったら、もちろんこだわりたいって言われたらこだわろうって思うけれど、自分からはこだわろうとは思わないですね。(一同笑い)

【Q】 公演前に先のことを話すのはあれですけど、今回の作品も考えつつ、この先トライしたい衣装とかお願いしたい衣装とかってそれぞれあったりしますか?

酒井  以前話していた、スカートから色々なものが出てくるっていうコンセプトの衣装かな。

木村 ワンピースになっていて、バルーンワンピースの形で。ワンピース自体はすごく薄っぺらな感じなんだけど、その中に要素がいろいろと入っていて、それを中に入れていると本当にバルーンみたいな形に膨らむんです。それを自分で出して、そこにいろいろとシャツがついていたりだとか、他の人も着れるような感じになっていて。

酒井  なんかダンスにできるかわかんないけど、一つの布に何人かが入っていて…。ちっちゃい頃におっきな布にみんなで、パラシュートみたいにしてみんなで中に入ったり広げたりした、そういう発想で一枚の大きな布を一人とか二人とかではなくて多い人数で入って、形を変えて行くというか。だからオブジェを作るみたいな、動きで。そういうのは機会があったらやってみたい。

木村 ひとりでも、脱いで違うところに…一枚の布で形を変えてとか…

酒井  そっか!酒井のソロで…

木村 全部中に入れたらワンピースになるとか。

酒井  逆に出てくるじゃなくて、最初一枚の布なのに動いて行って、最後は全部一つに収集、収納されちゃうって衝撃じゃない?

木村 私は幸菜ちゃんに着てもらうことを想像するといくらでもつくりたい気持ちになるので。でも、幸菜ちゃんから、何か言葉をもらった上で、それを形にしたいっていうのはある。

酒井  外から私がテーマを投げたとしても、じゃあこれに対してどうするっていう木村さんの返しが、また私にとっての楽しみであり、クリエイティブな部分につながるから、これからもよろしくお願いいたします。

木村 よろしくお願いいたします。

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今回はこのようなキーワードのやり取りから衣装が生まれてきました。実際に動きに含まれた衣装をぜひ劇場でご覧ください!

木村さん、創作過程の見える対談にご協力いただきありがとうございました。
毎週更新してきた対談は、ペースを落として終演後も更新予定!記録写真なども公開予定です。お楽しみに。