『わたしたちは生きて、塵』参加アーティスト特別対談⑤酒井幸菜×武藤留衣(メイク)
酒井幸菜新作ダンス公演『わたしたちは生きて、塵』参加アーティスト特別対談
急な坂スタジオ・サポートアーティストの酒井幸菜(振付家・ダンサー)。2年ぶりの新作となった『わたしたちは生きて、塵』では、多様なジャンルの若手アーティストと作品づくりに取り組みました。無事に公演が終了し、たくさんの方にご来場いただいた本作。公演前に紹介しきれなかった創作過程の裏側に迫るべく、スタッフの皆さんとの特別対談をお届けします。
公演終了後第一回目となる今回ご紹介するのは、メイクを担当してくださった武藤留衣さん。本作で初めてご一緒させていただきました。
ヘアメイクアーティストとしての活動と並行してコラージュ作品を発表されている武藤さん。酒井さんのビジュアルを用いてのコラージュ作品を制作いただきました。お二人の感性が共鳴しあっている様子をご覧ください。
目次
参加者プロフィール
武藤留衣
2001年ヘアメイクの修行で単身パリへ。atelier Pamsに在籍する。数々のアシスタントを経てパリコレに参加。帰国後2005年《atelier boxModel》を設立。ヘアメイクで活動する一方、数多くのコラージュ作品を発表。2010年自らもアートディレクションを手掛けた書籍『東京のパリ案内』出版記念イベントにて、初の個展を開催。2012年『TOKYO GRAPHIC PASSPORT』パリのポンピドゥーセンターにて展示。美を追求し表現の枠に捕われないクリエイティブアトリエとして書籍・広告・ファッション・音楽・映画・舞台など 各界でビジュアルを発信している。
ruimuto.net http://www.ruimuto.net酒井幸菜(振付家・ダンサー)
1985年神奈川県茅ケ崎市生まれ。5歳よりモダンダンスを学び、学生時代から創作活動を始める。東京芸術大学音楽環境創造科卒業。
しなやかな身体を最大限に活かした丁寧で繊細な表現が、多くの振付家から評価を受け、様々な作品に出演している。タイの漫画家ウィスット・ポンミニットとの異色の舞台『ダマンガス!!』を始め、音楽家や建築家、美術家など、他ジャンルのアーティストとの共同制作を通し、演出家として緻密な空間構成をする才能を開花させた。自身の創作活動は、2007年よりコンスタントに発表し続けており、美術館や小劇場、大理石造りのホールなど、様々な会場を見事に自分自身の空間へと変化させてきた。
また、演劇作品や広告、ミュージックビデオへの振付・出演、バックブランド<マザーハウス>のイメージキャラクター、EMI ROCKS 2012で披露され大きな話題となった清 竜人のステージの演出・振付を手掛けるなど、幅広く活動を展開している。
2011年、第60回神奈川県文化賞未来賞を受賞。
sakaiyukina official website http://www.sakaiyukina.net/
酒井さんをテーマにしたコラージュを受け、ダンサーである酒井さんの身体表現、すなわち爪の先までの身体の動き、曲線、直線、それに伴う服の動き、髪の一本一本に寄り添い、そして酒井さんのまわりに漂う光りや空気感をも目に見える形に描きたいと思いました。
コラージュの素材は何十枚もの写真の中から直感で手に取ったものを、切って、貼り合わせていきます。その中で感じたのは、酒井さんから伝わる生命力、そして静寂の中の動きに宿る躍動感です。
ひとつ、またひとつと素材を重ねていくと、謎めいたメッセージを解読しているような感覚を受けるのです。
酒井さんの表現は、その動き一つ一つには、言葉にしきれない感情が存在して、私はその部分に共感しているのだとコラージュを制作していく中で改めて感じました。
高校生の時にみたシルヴィ・ギエムの『ボレロ』、彼女の細くて柔らかい髪は一本一本息をしているようで、それに憧れてわたしも髪を伸ばした。踊る時に首筋と横顔を綺麗に見せたくてボブにしている時期もあったけれど、踊るときにポニーテールを揺らしたくて、背中の真ん中まで伸びた髪をダウンスタイルで踊ると少し遅れてついてくる速度が最近は楽しいです。
ヘアメイクでも携わった「わたしたちは生きて、塵」をテーマにしたコラージュは、私にとってあの空間は幻のように見えました。目の前で霧みたいな細かい幻がいくつも積み重なって届きそうで手が届かない。
存在に触れることはできないけれど、残像はいつまでも頭の中に残り続けます。
今回武藤さんには、<秘められた強い意志がふとした瞬間に垣間見える>よう肌に寄り添うようにしてメイクしていただきました。そして作品の温度や質感を丁寧にキャッチしてくださり、それをコラージュ作品としてくださいました。感激です。
ちょっとした仕掛けでぐんと魅力を引き出してもらったり、パーソナルな部分を閉じ込めて加工することで、自分ではないキャラクターになって飛躍できる。そんなヘアメイクの力を舞台でのパフォーマンスで活かしたいと思っています。
髪の先、まつげの影にも物語は宿ってる。
そんなところでぞくっとさせられたら。
武藤さん、素敵なコラージュ作品をありがとうございました!作品を通じてお二人がお互いの存在によってインスピレーションを受け、新たな創作意欲につながっていく姿を感じることができました。