『わたしたちは生きて、塵』参加アーティスト特別対談②酒井幸菜×鈴木竜一朗(記録写真)
酒井幸菜新作ダンス公演『わたしたちは生きて、塵』参加アーティスト特別対談
急な坂スタジオ・サポートアーティストの酒井幸菜(振付家・ダンサー)。2年ぶりの新作となる『わたしたちは生きて、塵』では、多様なジャンルの若手アーティストと作品づくりに取り組んでいます。その創作過程の裏側に迫るべく、今回はスタッフの皆さんとの特別対談をお届けします。
セカンドバッターは、記録写真を担当していただく、鈴木竜一朗さん! これまで酒井さんを切り取ってきた写真と、その印象を語っていただきました!酒井幸菜のお返事付き!
目次
参加者プロフィール
鈴木竜一朗
1984年静岡県御殿場市生まれ。東京綜合写真専門学校卒。
2009年より4×5インチフィルムの大型カメラを用いた創作を開始。”自身と世界との境界に、カメラを(filmを)そえる感覚”をもって、同年「よこはまばしアートピクニックTOCO」にて個展『PHOTOTAXIS』を開催。
2011年には香川県の離島「直島」にて個展『UTSUSHIYO -うつしよ-』を開催し一ヶ月間現地に滞在。土地の特性や歴史に大きな興味を抱き、以降「民俗学」が創作の重要なテーマのひとつとなる。
様々なジャンルのアーティストと関わりが深く記録撮影を担当するが、垣根を越えて参加してしまうことが多い。
酒井幸菜(振付家・ダンサー)
1985年神奈川県茅ケ崎市生まれ。5歳よりモダンダンスを学び、学生時代から創作活動を始める。東京芸術大学音楽環境創造科卒業。
しなやかな身体を最大限に活かした丁寧で繊細な表現が、多くの振付家から評価を受け、様々な作品に出演している。タイの漫画家ウィスット・ポンミニットとの異色の舞台『ダマンガス!!』を始め、音楽家や建築家、美術家など、他ジャンルのアーティストとの共同制作を通し、演出家として緻密な空間構成をする才能を開花させた。自身の創作活動は、2007年よりコンスタントに発表し続けており、美術館や小劇場、大理石造りのホールなど、様々な会場を見事に自分自身の空間へと変化させてきた。
また、演劇作品や広告、ミュージックビデオへの振付・出演、バックブランド<マザーハウス>のイメージキャラクター、EMI ROCKS 2012で披露され大きな話題となった清 竜人のステージの演出・振付を手掛けるなど、幅広く活動を展開している。
2011年、第60回神奈川県文化賞未来賞を受賞。
【出会い】感動と応援団
@はじめに
酒井幸菜さんと初めてご挨拶したのは「ミツスイの逃走団『脈拍』」(2008/07)のときだったような記憶があります。そもそも、僕が学生時代に「cero」(バンド)※注1と交流をもち、そのつながりで表現(Hyogen)※注2と出会った(2007/07)のがきっかけです。
『脈拍』の公演にとても感動して、いてもたってもいられず新百合ヶ丘の公園で友人たちと踊りました。僕は高校時代に応援団長を務めていたのですが、なぜか『脈拍』の感動と応援団の振り付けが混ざってしまい、陽が暮れるまでひたすら公園で応援をしていました(笑)。そのとき友人が動画を撮っていて後にyoutubeにupしたのですが、それを見た表現(Hyogen)の佐藤公哉くんが「ライヴで応援をやって欲しい」と声をかけてくれ、芸祭のステージで表現(Hyogen)の演奏に合わせ応援パフォーマンスをすることになりました。ちゃんと袴を着て、タスキをして(笑)(2008/09)。そのとき酒井さんもダンスで出演していたので、変な話なのですがそれが彼女との最初のコラボレーションになります。
@御殿場
2008年の10月に僕の住む静岡県御殿場市にて、十年に一度しか廻ってこない『吉田大祭』※注3という奇祭がありました。その際に酒井さんが初めて御殿場へいらしてくれました。11月に横浜トリエンナーレのリング・ドーム※注4にてソロパフォーマンスが控えていたので、芝生でリハーサルをしてゆきました。
※注1 cero:Contemporary Exotica Rock Orchestra 略してcero(セロ)。 カクバリズムからデビューしている若手のポップバンド
※注2 表現:様々な地域、時代の音楽を身体に落とし込み、深い欲求に従ったプリミティヴなポップミュージックを模索するバンド。
※注3 吉田大祭:吉田神社例祭。文化三年(1806年)に悪疫が流行したとき、京都から招いてきた吉田神社。御神体である神輿は、沼田、中清水、二子、竈、大坂、萩蕪、中山、駒門、塚原の九地区で1年ごとの持ち回りとなっている。
※注4 リング・ドーム:チョウ・ミンスク と ジョセフ・グリマ & ストアフロント・チームによって設置された鋼管のリングと多数のフラフープを結束バンド固定したドーム状の仮設パビリオン。横浜トリエンナーレ2008では、直径約10メートルの《リング・ドーム》が設置され、さまざまなイベントが催された。
酒井幸菜は風を司るんだ…
@リング・ドーム
リング・ドームでのパフォーマンスはいまでも印象に残っています。ラストに吹いた冷たく優しい風が忘れられない。あの瞬間「酒井幸菜は風を司るんだ…」と会場にいたみなさんが悟ったはずです。
@おっとり舍
絵描きの小田富美子さんとのコラボレーション。これも印象深いものでした。憑かれたように口を押さえる彼女。そして吐き出された言葉は、たしか…「ヒマラヤに登る!」だったかな?ダンスの途中で意味性の強い言葉を叫ぶ彼女を初めてみたので驚きました。小田さんのクレヨンを口に含んで、最後に吐き出して終わるところも記憶に残っています。渦の中から、観客をちゃんと地に戻して終わりを自覚させる、すごい人だなぁと思いました。(あと、関係ないけどこのあと北千住でカキを食べ、アタりました…)
※注5 おっとり舍:2007年~2010年。NPO法人「千住藝術村」(代表・加賀山耕一さん)の支援を受けて、千住緑町3丁目にある古い2階建て民家を改築、作品製作をしながら、「まち」を考え、情報を発信するプロジェクト。
初めての撮影依頼
@ダマンガス!!
初めて彼女から撮影依頼がきたので、身が引き締まりました。
当時の風潮として「脱領域」というか「境界を越えてゆく」みたいな意識が各方面で強まっていたような気がします。作品にもそういった意識が反映されていたように感じました。撮影スタッフである僕が本番でドーナツを食べたり、紙ヒコーキを飛ばす役をやったり…。僕自身、そういった関わりを望んでいたので嬉しかったです。後半、暗転してからの「いつかの、どこかでの、なにかの記憶」を想起させるようなテキストに、彼女のもつ淡い闇を垣間みた気がしました。
@In her , F major
「In her…」は酒井さんにとって特に重要な作品だったではないでしょうか。そんな気がします。とても強い、ショックにも似た印象の残るダンスでした。霊媒的というか、霊そのものになってしまったようにみえる瞬間が幾度となくありました。水の滴る音、鋏、机…。大昔に起きた出来事が、何かの間違いでその場に再生されてしまったかのようでした。
@難聴のパール
僕はSTスポットでの公演しか拝観していないのであまり意見は述べられないのですが、今までで一番疲れる公演でした。他人の記憶をそのまま見せつけられているような印象。少し息苦しかった記憶があります。
シャッターを切るに切れない
@TOCO
TOCO※注6でのダンスは、素の酒井さんに近い印象を受けます。リラックスしつつも、心地よい緊張感をまとっているというか。
TOCOが無くなるとき、公哉くんと一緒にやった『バスが来ない』は実に素晴らしかった。「ここまできたか」と唸ってしまいました。踊る本人の目の届かないはずのところまでしっかり意識をまわしていた。観客の目線をそのまま自分の目線として見れているとしか思えないダンスでした。(天気はとにかく大荒れでした。)
@表現(Hyogen)
Hyogenと酒井さんの関係は実に深いですね。特別な信頼関係にあるでしょうし、切磋琢磨し合う仲でもあると思います。2011年の池袋ORGでのダンスと演奏は、それまでの酒井さんの印象をガラリと塗り替えるものでした。一味ちがった自己演出を身につけたというか、新しい役を発見したというか。踊っている最中、すごい高齢の女性にみえる瞬間があり、ドキッとしたのを憶えています。フォークや双眼鏡という、ちょっと主張が強い小道具もさらりと使いこなしていました。かっこよかった。
2012年最初の六本木でのセッションは、ライヴハウスでの公演の一つの完成型をみた気がしました。堂々とした振る舞いに圧倒されてしまい、シャッターを切るに切れませんでした。
※注5 TOCO:よこはまばしアートピクニックTOCO(2009~2012)。アーティスト有志のアトリエ、ギャラリー、カフェを併設した複合スペース。
酒井幸菜からのお返事
鈴木竜一朗さま
りゅうくん、いつも私のダンスの呼吸を捉えてくれてありがとう。
ダンスはとどめておけない切なさがあります。
その美しい刹那を、りゅうくんのカメラは逃さない。
ときに荒々しく、ときに静謐におろされるシャッター音はりゅうくんの呼気であり、私の吸気となる。
私が卒業して初めて外の劇場で打った自主公演は不安や反省もたくさんあった中、「僕、『脈拍』みて感動して公園で応援団の応援をしちゃったよ!」とあの仏陀のような笑顔で(仏陀は笑わないか)言われたとき、すごく励まされました。
初共演の芸祭でのステージ、あれは私にとって<音になる>という快感を得た瞬間でもありました。
いま思い返すと、かなりカオスなステージだったよね。表現のみんなも変な格好してたしね。
それから私が表現のライブで踊る時には必ず撮ってくれていて(『ダマンガス!!』での2回目の<共演>も嬉しかった)、焼きあがった写真もさることながら、撮っている瞬間のりゅうくんの存在は踊りのテンションをあげてくれます。
「いいよ、いいよー」とか言うわけではないけれど笑、レンズ越しの瞳がひしひし刺してくる。
だからそれに負けないように、ときにうまくかわしながらこちらも全身全霊を捧げようと思うの。
私はレンズ恐怖症って言ってもいいくらい撮られることが苦手なんだけど、りゅうくんに向けられるレンズは怖くないよ。
今回は舞台にダンサーの体しか置かない。
塵々になりながら必死に呼吸する<ダンスの姿>を、逃さず、切ってね。
待ってる!
酒井幸菜
鈴木さん、素敵なお写真をありがとうございました。
お二人にとって互い存在が刺激となっていることが伝わってきました!
次回は、出演者のみなさん(ダンサー)との対談をお届け予定です。どうぞお楽しみに。