『わたしたちは生きて、塵』参加アーティスト特別対談④酒井幸菜×木村菜穂子(衣装)

Dust as we are, still alive参加者プロフィール

参加者プロフィール

Naoko Kimura撮影:相川健一

木村菜穂子

2006年、まつもと市民芸術館で上演された舞台『水の話』が衣裳家としての始まり。以後舞台や短編映画、オペラやダンス、広告衣裳などの衣裳デザイン・制作を担当する。『ダマンガス!!!』や『難聴のパール』、バックブランド〈マザーハウス〉の『hanabira series』など、酒井幸菜の纏う衣裳も手掛ける。
「纏う人」を想い、デザイン・制作することが多く、空想から紡ぎ出した言葉でイメージを描き、つくったものをダンサーや役者に着てもらい、つくり、着てもらい、つくり、着てもらう・・・という過程を繰り返し、立体的に作り上げていく。

Yukina Sakaisakaiyukina official website http://www.sakaiyukina.net/

Topic-1 『衣装を始めたのは…』
taidan_kimura2酒井幸菜×ウィスット・ポンミニット『ダマンガス!!』 川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(川崎/2009年2月) 撮影:鈴木竜一朗
『衣装を始めたのは…』

4月14日 せっかくの機会なので、衣装を始めたきっかけから・・・

【Q】急な坂スタッフ  酒井さんから、木村さんが服飾科のご出身でなく、『美術解剖学』からスタートされたと聞いたのですが?

木村菜穂子(以下、木村)  もともと皮膚感覚というのに興味があって衣裳とか服をつくりはじめて、そこをちょっとつきつめたいなと思って美術解剖学※注1という医学的な研究とか授業のあるところに進んだんです。

【Q】  では、大学で木村さんと酒井は、出会ったんですね?

酒井幸菜(以下、酒井) 私も美術解剖学にはちょこっと興味があって布施英利先生の生物学とかはとってましたが、木村さんと知り合ったのは卒業してからですね。

木村  私が舞台衣裳に関わるようになったきっかけは、演出家の串田和美さんが、藝大に週に一回くらい、授業にお見えになっている時期がありまして、私は興味があることにはわりとがつがつ行っちゃうタイプなんで、親しくさせていただいて、いろんな舞台を見せていただいたりしていました。その時に、串田さんが各地でワークショップをやる機会があったんです。

【Q】 どのようなワークショップだったんですか?

木村  役者さんのワークショップなんですけど、『それに行きたい』って言ったら、『じゃあ、いいよ』って言っていただいて、役者さんにまざって一人だけぽつんと3週間くらい、松本や北海道の富良野や札幌についていきました。

【Q】 その時、衣装はつくったんですか?

木村  そこで出会った役者さんの中に、中嶋しゅうさんという役者さんがいるんですけど、その方がたまにご自身で演出をされることがあって、それの衣裳をやるようになったんです。学生の時に、串田さんが芸術監督をしているまつもと市民芸術館で、中嶋さんが地元の方と舞台をつくることになって、その際に衣裳でよんでいただいて、2カ月くらい松本に滞在しながら衣裳を制作しました。

※注1 美術解剖学:東京藝術大学 大学院美術研究科 芸術学専攻 美術解剖学研究室

Topic-2 つくり方。『ダマンガス!!』の場合
taidan_kimura2Neandertal ZINE『Dancer in the Light』
つくり方。『ダマンガス!!』の場合

【Q】  実際に衣装をつくる時にどのような進め方をされるんですか?デザイン画とか見せてもらえたりしますか??

木村  私、今まで服飾の大学とかで勉強していたわけではなくって、ほんとに自分の興味から始めたんですね。たとえば、着たい服がないから自分でつくってみたりとか。あと、皮膚感覚で、ちょっとごわごわしたものとかを使うと、身体の境界がより分かりやすいんじゃないかと思って、紙で服を作ったりしていて。あんまりスケッチは描かないんです。言葉で書くことが多くて、メモとか・・・

【Q】 デザイン画じゃなくて、メモ!面白いですね。

木村  たとえばいろいろ聞いたことを、メモして、言葉をどんどん連想させて書いていってそれを見ながら、実際に縫ったり・切ったりとかして、落とし込んでいくっていうやり方です。

酒井  あんまスケッチでのやりとりってなかったですよね。

木村  うんほとんど。

【Q】 木村さんが、酒井の衣装を作る時の二人でのやりとりはどんな感じなんですか?

木村 なんか、幸菜ちゃんから言葉をもらって、『こういうイメージがいい・こういうイメージをもっているんです』っていう言葉を聞いて、その言葉を核にそこからもうちょっと抽出したりとか拡げていったりとかして一回ラフなこんなのどうです?ってどーんとだしちゃう。

酒井  ものをつくってもらっちゃって、もうちょっと長くとか、素材をもうちょっとこういう感じに変えたいとか、そういうやりとりですよね、いつも。

木村  ものを介してそこで何か言ってもらって、それをできるだけ形におこしていけたらって。動き方にしても、ここがもうちょっと動く方がいいとかここは動かない方がいいとかいうのを反映させていきたいなと思って。

酒井  私もうまく言葉で説明できないけど、それを引き取ってくださいますね。

【Q】 「ダマンガス!!」の時からそんな感じですか?

酒井  ダマンガスのときは、【赤いワンピースを着る】っていうのは自分の中で決まっていて、それをお伝えして、飛んだり跳ねたりするときの落ち感があるほうがいいっていうようなことだけ伝えました。あとはタイの方とのコラボレーションだったから、タイ料理の持っている【甘い・酸っぱい・辛い】って、いろんなものが同時にやってくる感じ、それは同時に、アジアのまちのこととかも含めていて。ほんとにいろんな素材とか柄がはいった…あのときは、タスキみたいなのがあったっけ。

木村  うんあったね。シンプルなワンピースの上に、タスキのようなものをつけて。

酒井  一人しか出演者がいないから印象をいろいろ変えたいというのもあって、リバーシブルにしてほしいというのがあって。リバーシブルにしてくださったんでしたっけ?

【ここで、過去の作品を実物を展示しましょうか・・・という話で盛り上がり、公演期間中ロビーにてtop写真作品の一部を展示したいます!ぜひぜひ、お近くでごらんください!】

Topic-3 今回の作品は??
taidan_kimura『In her,F major』 LIFT(東京/2010年10月) 撮影:相川健一
今回の作品は??

【Q】  本当に言葉から発想してどんどん広げていく感じなんですね。

酒井 ディテールではなくて全体のイメージはある程度こういう感じというのをお伝えして、たとえば出演者ごとに、この人はワンピースがいいとか、パンツがいいとか、お伝えすることもあるんだけど、でも割とお任せですね(笑)でてきたものを見て、『わっ』となる、『すごい』ってなる。

【Q】 今回の作品はどうですか?
以下、酒井の言葉の抜粋です。本作について熱く語られた中から、キーワードを抽出しました。

シャツの展開/パターンの組み合わせ/ニ枚のシャツで一枚のシャツ/6人の女性/姉妹ってわけでもないし友達ってわけでもない/何か運命共同体みたいな感じ/人の摩擦/自分の中のいろんな面/しがらみ/パターンがあべこべ/でも形をなしていてそれをまとっている/洋服の中で一番パターンが多い/すごく基本のもの/分解して再構築する/なにをしていいのか、何をしたらいいのか/今この瞬間を全うする/この瞬間を惜しみなく生きる/生の身体を差し出す表現媒体/身体を惜しみなく差し出す/恥ずかしいくらいストレート/ぶつかっていって・粒子になって・蒸発していく、くらい全うする/一人ではなくて二人以上/すごく慈しむこと・いじわるなこと/いいこともわるいことも一人ではなく二人以上いればおこる/

木村  具体的には、ワンピースという感じ?上と下でわかれてるイメージ?

酒井 人によってちょっと違っていいかなって思っていて。どちらかというとワンピース的なイメージ。『ふわっ』ていうよりも、シャツワンピースで下はショートパンツをはくとか。シャツの前後が逆になっちゃってるとか。手がすごく長いとか。いくつかバリエーションを。素材もいくつか。綿とか、ち
ょっと化学繊維っぽい変わった素材だったり。
(以下、酒井の熱い想いからキーワードを抽出!)

わたしたちは生きて、塵/ダスト感/ゴミっぽさ/きれいなものだけではない/ちょっと違和感のある/異素材が組み合わさっている/雑多感/紺のグラデーション/白にもいろんな白がある/光の陰影とか動き/いつも表情を違って表わす/シャツをはおってるみたいなラフ感/片腕だけ通してる/ニュートラル/照明とダンサーの身体とまとった衣裳/身体と照明そして音楽/空間に色気があるわけじゃない/

木村 足元は?

酒井  はだしですね。床面もそのまま黒です。リノとかもしく予定はなくて。やっぱり膝から下は出てた方がよくて。腕も片方は長くても、片方は肌が出ているような感じで。どうしても照明が当たった時に腕の陰影がみえた方がきれいなので、そこは見せたいなと思っています。
(以下、作品への熱い想いのキーワード!!)

けっこう動く/立っていて美しいってだけではなくて本当に動きを/過酷な振付/重くならない方がいい/ごわごわとか違和感とか摩擦とかは全然あり/軽めな素材でふわっとしたものがどこか一ヵ所ある/散り散りになっても踊り切ってやる私たち!/寄り添って引き立てるではなく/こっちから寄り添うのではなく戦いに行く/戦って戦って上に行く/生命力/フィットしちゃうよりもしがらみをまとっている/着心地が悪い/何か違和感がある/マントとか、いろんな素材とか柄/情報過多/その物量をおもしろがる/

酒井 私は木村さんとやるときは違和感みたいなものが常についている方がいいなって思っていて。わーっというとこんな感じですね。
木村 いつもだいたいこういう話をして、じゃあ一回目の衣裳案をんかもっていきますねっていう。自由にやらせてもらってて、だからすごい楽しいんですよ、幸菜ちゃんとやるときは。

酒井  たぶん他の人にこういうことを言うと、もうちょっとはっきりって言われちゃうと思うんだけど、木村さんには、ばばばばばーって。わわわわって渡して、

木村 わわわわって返して。

酒井  実際にものを見て話して、だからわりと生産的といえば生産的ですね。それを何回もつくり直したりすることがあって、無駄な作業もあるのかもしれないけど、とか、負担をかけちゃうこともあるとは思うんだけど、手でこねて作っていく感は木村さんとやっているとすごくあるし、最初の時点でどんなものが出てくるんだろうっていう期待があるから、渡せちゃうんですよね。

Topic-4 巨人の服
taidan_kimura『難聴のパール』ヨコハマ創造都市センター1Fホール(横浜/2010年6月) 撮影:飯田研紀
巨人の服

5月10日急な坂スタジオ、酒井からの言葉を受けて、木村さんがサンプルを1着持ってきてくださいました。

酒井 巨人の服だ。

木村  これ一応男性のシャツの3倍の大きさの服の一部が元になっていて、私とあなたっていう二倍じゃなくてもうひとり外側にいるという意味もこめて二倍じゃなくて三倍に、みんなで一人のひとのちょっとずつを分け合っているのか、6人の共同体でひとつになるのかとかいろんな解釈があると思うけど、そういうのをコンセプトに今回はつくってみました。このワンピースはシンプルに、幸菜ちゃんをイメージして、大人っぽさみたいな、きれいなものを。

酒井 (笑)

木村  だから、デコラティブなシャツがついているものではなくて、でもシャツの要素があるようにして。

酒井 なるほど。

木村  着方がいろいろできるから、基本的には上があんまり動かない感じで下が揺れる、幸菜ちゃんが言っていたどこかがフィックスしていて、どこかがふわふわ動いてほしいっていうのを、これは上がフィックスして下が動く。自分から離せない、かかえこんじゃうっていう。みんなで奪い合ったのか、わけあったのかわからないけど大きな服の一部を自分で纏ってしまうひとたち。みんなが着る短パンはシンプルで子どもっぽさがのこるような丈でこれぐらいはどうかなっていうサンプルでつくってみました。

酒井 いろんな着方ができるね。

木村  日によって着方が変わるとか

酒井 それすごいね!日によって5回全部着方が違うとか。

木村  いま、パーツで言うと幸菜ちゃんは右袖で・・・
(以下、木村さんの熱い想いからキーワードを!!)

左袖/一番シャツ感がわかる男性的なボタンがついている右側/ぱっと見シャツ/シャツワンピースっていう感じのする右というか右身ごろ/左身ごろと背中と襟/現実逃避というか直視できない、パワフルなんだけど、ほんとは前を見ているようで自分を一番直視できていない/背中を、背負っているものを本当は振りほどきたくてあんなに激しく動いている/大きな背負っているのか、背中を追いかけているのか/本当は一番何かが足りない/左側のポケットがある心臓側の、ひとには見せない・独り占めしたい/誰かに見せたりしないというかたくなな感じ/

(そして、作業は具体的に・・・)

木村 色味としてはこれぐらいで大丈夫?

酒井 うん、あんまり青という感じではなくて、これぐらいで。

木村 これぐらいがベース?

酒井  一番明るいくらい。

Topic-5 今後、一緒にやりたいことは?
taidan_kimura

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